376 セラ、これまでの軌跡

 「……」


 後ろでアブドの視線を感じつつ、セラは一歩前を歩く、ムハドを見つめる。


 ……どういうふうに、ムハドには見えたのかしら。

 セラは思った。


 50頭の、ラクダの交易。


 もとは、メロの国からは、100頭と依頼されていた。


 そこに長老が待ったをかけた。


 そして、長老からの指示を受け、セラは、ジェラードや数人のキャラバン達とともに、メロの国に先行していた。


 ワイルドグリフィン撃退における論功行賞に、他村の賓客として、セラとジェラードは参加し、そこから、メロの国内に留まり、さまざまに情報収集を行っていた。


 調べた結果……たしかに、メロ国内において、キャラバンが増えたことで、ラクダは不足していた。


 ではなぜ、キャラバンが増えたのか……。


 そこでたどりついた、アブドという人物。


 老齢な者の多いメロの公爵の中では比較的若く、大国ではあまり見られることのない、キャラバン優遇政策を推し進めていた。


 ジェラードと話し合い、この公爵について探ることにした。


 他村の賓客を引き続き装いつつ、アブドの国内における人気具合や、また、交友関係について、調べれるところを調べてゆく。


 また、時にはアブドの根城である公宮の手前まで足を運び、怪しまれない程度に、どんな人物が出入りしているかを調べた。


 そして、こういう時、ジェラードは上手かった。


 どこからか、画用紙と三脚を持ってきて、美術家風の装いで、絵を描き出したのだ。


 「いやぁ、この公宮の景観がすばらしかったので、絵を描かせてもらっているんですよ」


 話しかけてくる人々に、ジェラードは言うのだった。怪しむ者は、誰もいなかった。


 しかし、途中から、公宮の門を、護衛が厳重に守りだした。


 気づかれた……わけではなかった。


 やがて、ジン出現という噂が、国内に広まり始めたのだ。


 そんな中。とある夜。


 その日も賓客を装い、ジェラードと共に、ムスタファという、アブドと同期だという公爵と会食するために、馬車で公宮に向かっていた。


 しかし、その会食は、キャンセルになった。急用とのことだった。


 徒労に終わった、その、帰り道。


 「ちょっと、道草しても、いいかしら?」


 馬車の運転士に、この国に来た記念にと、アブドの公宮を通りすぎるように、お願いした。


 ムスタファ公爵との会食がバラシになったことを知っていた運転士は、同情心もあってか、快く承諾してくれた。


 アブドの公宮で、停車する。


 馬車から出て、少し、その景観を、眺めていたときだった。


 窓が開いていたのか、ヒラヒラと、数枚の紙が落ちてきた。


 それらの紙を、セラは拾い上げた。


 「!!」


 そこに書かれていたことに、セラは戦慄した。覗きこんだジェラードも、言葉を失っていた。


 ……マナの兵器の、設計図……!!


 アブドとキーフォキャラバンとの繋がりの可能性が、ここから急に浮上した。


 諸々記載して、キャラバンの村へとルフを飛ばした。


 数日後、長老から、返書が届いた。


   ムハドを向かわせる。その公爵と引き合わせよ。

   ラクダの数は、50頭に決定。


 ムハドに、アブドを引き合わせること。それが、今回の任務のひとつとなった。

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