535 ムハド、心情の吐露

 「ムハドさんが、サピエンス……?」

 「ああ」


 マナトは、少し考えた。


 「……いや、それは、違うんじゃないですか?」

 「ほう?そう思うか?それはそれで興味あるぜ」


 ムハドが興味ありそうな面持ちを、マナトに向けた。


 「ムハドさんは、生命の扉、見れるじゃないですか。僕の前にいた世界ではそういう生命の扉という概念自体なかったというか……いや、似たような見解はあったとしても、ともかく、そんな眼を持っている人は、いないですよ」

 「まあ、そこは、たしかにな」


 ムハドはうなずいた。


 「たしかに俺の眼は、他人の生命の扉を見ることができるという点で特殊かもしれない。だがマナト、お前だって、このヤスリブに来たとき、思ったんだろ?密林からやって来た主級のグリズリーと戦ったミトを見たとき、こんな気持ちを思ったはずだ」

 「えっ?」

 「こんな世界で、生きていけるのか、とな」

 「あぁ……」


 マナトは視線を、ステージ上に戻した。


 ――わぁ!わぁ!!


 「くっそ!あのぐるぐる巻きの剣、思った以上にウザいぞ!」

 「ミトくん!あんな女に惑わされないで!!」


 相手はまったく違うが、あの時と同じように、みんなの声援を受けながら戦うミトの背中が、マナトの目に映った。


 「……思いました」

 「俺も、ずっと、弱かった。そして、今も、弱いままだ」

 「……」

 「弱くて、それを自ら否定したくて背伸びして、15歳で無理矢理交易についていった。だけど、そこで死にかけて、みんなに大迷惑をかけた」

 「……」

 「強ければ……そう、思った。いま、ステージでああして戦っているミトが……隊の強いみんなが、羨ましくて、しょうがない」

 「……」


 同じくミトを見ながら、落ち着いて心情を吐露するムハドに、マナトはどう声をかけていいか分からなかった。


 ――キィン!!


 ステージ上、ミトのダガーとアイーダの曲剣の交わる音が響いた。


 ――タッ!


 ミトが地面を蹴った。アイーダを軸に反時計回りに、曲剣を持っていない方向に、素早く回り込む。


 「ムダよ!!」


 アイーダの横振り。


 ――シャァァ……!!


 しなる金属音とともに、曲剣がムチのように伸び、加速しながらミトに迫る。


 「いまだ!!」


 ――キュッ!


 ミトが急に反転。身体を回転させながら斜め上に跳んだ。


 「なに!?」


 曲剣がちょうど、ミトの下を通り抜ける。


 ――スタッ!


 ミトが一回転して着地。同時に、アイーダへ向かって跳躍。


 振り抜いてしまったことで、曲剣もアイーダ自身も、横向きに重心が傾いてしまっている。


 「くっ!」


 アイーダが後方に下がった。


 「逃がすな!!ミト!!」

 ステージ側で観戦していたラクトが叫んだ。


 「分かってる!!」


 ――タァン!


 ミトがさらにもう一歩踏み込む。


 アイーダをダガーの射程圏内に捉えた。

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