132 マナトの一日③/ミトの人気

 「ありがとう、ミト。お皿、洗うよ」


 お昼ごはんを済ませると、マナトは汚れたお皿を持っていき、炊事場のくぼみに置いた。


 ――ズァァァズァァァ……。


 水を循環させ、少し強い水圧で、皿についた汚れを落としてゆく。


 「うわぁ!なにそれマナト、すごい!」

 「僕の前にいた世界では、洗浄機っていうのがあって、それ再現してみたんだよね。……よし、あとは軽く流して、拭いて、と」


 ピカピカのお皿を、食器棚にしまった。


 「交易の時にも思ったけど、マナトってホントに、頭いいよね。水の能力、こんなふうに使いこなしてる人、いないと思うよ」

 「いや、これは前の世界の知恵だから、そんなに大したことないよ、はは」


 ミトに褒められ、マナトは照れ笑いした。


 「これから、長老のとこ?」

 「うん、そうだね」

 「僕も、これから交易市場に行こうと思ってたから、一緒に出るよ」


     ※     ※     ※


 「あら、ミトくん、ご機嫌よう」

 「あっ、久しぶり」

 「ミトくん、こんにちは」

 「こんにちは」

 「ミトく~ん」

 「やぁ」


 村のメインストリートに差し掛かったあたりから、ミトは女の人から、よく声をかけられていて、村の中心部に行くほど、その回数は増えていった。


 ……ステラさんだけじゃないんだな。ミト、人気あるなぁ。


 確かに、ミトは涼しい顔立ちに、スラッとした体格の、清潔感のあるさわやか青年だった。


 それに、年齢も二十歳はたち。このあたりの年代は、男によっては、それまで眠っていた男らしさが全面に出てくるものだ。


 加えて、キャラバン最終試験での、グリズリーとの一騎討ちも、やっぱりかっこよかった。


 「ミト、モテモテだね」

 「えっ?そんなことないよ」

 「いや、誰が見ても、そうだと思うよ?」

 「そう?いやでも……」


 ミトはチラチラと、周りを眺めた。


 「うん。やっぱり、マナトも見られてるよ?」

 「えっ?」


 マナトもチラチラと見た。


 ……ホントだ。


 ミトに向けられている視線にばかり目がいってしまっていたが、確かに、自分に向けられている視線も、ないではなかったのだ。


 「あっ、あの~」

 「ちょっと、いいですか?」


 数人の女の人が、とうとう、マナトに話しかけてきた。


 「あっ、ど、どうも……」

 「あの、そのコ……」

 「えっ?」


 女の人は、マナトの胸のあたりを指差した。


 ――スヤスヤ。


 先にミトの畑でチョウチョ達と遊び疲れ、マナトの腕の中で熟睡しているコスナを指差していた。


 「寝てる~!」

 「かわいい~!」


 ……そっちですよねぇ~。


 そんなこんなで、村の中央広場手前までやって来た。


 広場は今日も、わぁわぁと、たくさんの人で溢れている。


 「それじゃ、僕はこれで」


 ミトが立ち止まった。


 「うん、それじゃ」


 ミトが市場の人混みの中に消えていくのを見送ると、マナトも長老の家へと向かった。

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