644 ガストと男の会話
「こちらこそ、完全によそ見してぶつかってしまいました。申し訳ないです」
男は頭を下げた。
……と、とにかく顔がバレるとまずい!
そう思い、ガストは深く護衛帽を被り直した。
……てか、なんでコイツ、こんなところにいるんだ?
ガストは護衛を装いながら、下を向きつつ男に尋ねた。
「……つかぬことをお伺いしますが、あなたはキャラバンですよね?」
「はい」
「どうして、公宮へ?」
「いま、キャラバンも、護衛と同じように動くように言われているのですよ。……あっ、ほら。ちょっと、中庭のほう、見れますか?」
すると男は、ちょっと公宮の表側を見て、ガストにも見るように促した。
「あっ」
見ると、護衛のように統一されてはいないが、特徴的な服装をした者たちがやって来ていた。
「アイツら……!」
背に大剣を装備した人物。たしか、キャラバンのサロン対抗戦のとき、オルハン陣営とは逆のほうで応援をしていた者だ。
その隣にいる赤い髪の者も、たしか、いた気がする。
「へぇ……」
「僕からも、ちょっと、いいですか?」
「!」
言われ、ガストは男のほうを向いた。
周りは暗いが、公宮内から漏れるたいまつの火が、男を照らしている。
穏やかな表情を浮かべ、黒い瞳からは、前にオルハンと戦っているときのような光は放っていない。
「かなり、混乱しているようですね」
「えっ?」
「この公宮に住む外交担当の公爵が、どうやら公爵会議上で、キャラバンの女性一人を犠牲にすべきという噂は、どうやら本当のようです」
「……さっきも、ちらちら表で言い合いしていたヤツですね」
「はい。しかも、途中まではその公爵の意見で議会が一致しかけていた」
「……みたいですね」
それについてはガストも知っていた。
公爵会議のようなものは、あまり情報は下りてこない。
そもそも、普段、そういったものにあまり興味はない。
しかし、今回のような件は、さすがに人から人へと伝わり、広がっていくものだろう。
「どうやらそのあたりから端を発して、次第に、外交担当の公爵はジンに加担しているとみなされてしまったようです」
人から人へと伝わっていく過程で、その噂は次第に誇大になっていき、その変容がとんでもないものになってしまう。
おそらくそんな感じだろう。
……そもそも、どうやってジンを呼び寄せるというのだ。
しかし、今回の襲撃をした者たちは、本気で外交担当の公爵がジンを呼び寄せたと信じていたように思う。
「反対意見する公爵がいなければ、おそらくその案は通り、誰も知らないままに、この件も、こんな襲撃のようなことにはならず、終息していたことでしょう」
「……」
ちなみに外交担当の公爵の案に反対した人物も知られている。アブドという公爵だ。
「あなたは、どう思いますか?どちらのほうがよかったと思いますか?」
「……そんなの、」
ガストは答えた。
「そもそも、ジンがいなければいいだけのことじゃないですか」
「……それだけでしょうか?」
「えっ?」
「人間の中には、分断をしなければ気が済まない者たちがいる……つまり、反乱分子が紛れ込んでいる。僕には、今回の件に関しては、そう見えていて、危惧しています」
ネオクラシック・キャラバン~転移先の砂漠で、行商人に転職しました~ じっくり @jikkuri
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