39 西のサライ/ルナ①

 西のサライでは、中庭の中央に、焚き火を行うための台が設けられていた。


 夜。


 たきぎが井の字に積み上げられ、枯れ草に火が灯った。


 ――パチッ、パチッ。


 薪のはじける音がする。


 火柱はあまり大きくなく、薪に包み込まれるように赤々と燃え、時折火花を散らしながら、周りを明るく照らしていた。


 ラクダ達が、物珍しそうに、焚き火を見ている。


 マナトとルナは、中庭の端に設置されている、背もたれのある腰かけに座った。


 「火を見ていると、なんだか、ほっとします」

 

 ルナが言った。横顔が、ゆらめく炎に照らされている。


 「ええ。その気持ち、分かります」

 「あの積み上げられた薪の下段には……」


 ルナが、燃えている焚き火の、下段に積まれた焚き火を指差した。


 「水がかけられているんですよね」

 「あっ、そうなんでしたっけ?」

 「はい。それによって、上から順番に燃えてゆくことで、積み上げた薪が崩れないようにしてるんです」

 「あぁ、なるほど〜」


 ……そうだっけっけ?昔、中学の時に林間学校で、キャンプファイヤーやったけど、もう、忘れちゃってるなぁ。


 「マナトさんは、いつ頃から、水を操れるようになったですか?」

 「ええと、割と最近ですよ。数ヶ月前です」

 「能力者になるには、マナを取り込む必要が、ありますよね?」


 ルナが、マナトを見た。


 「えっと……はい」


 ……やっぱ、その話だよなぁ。興味ありそうだったし。


 実は、能力者になるにあたり、長老から、その経緯、つまりマナの洞窟でクルールの守り神の末裔、人魚の主と出会ったり等、あまり口外しないようにと言われていた。


 なんとなくそこらへんは、マナトも察する部分はあったので、ミトやラクトにも、具体的な出来事を言うことは、避けていた。


 「実は私も、能力者として……」


 ……あっ、そゆこと?


 「ルナさん、能力者だったんですか」

 「あぁ、いや、違うんですよね……」


 ルナが、目の前の焚き火に、目線を戻しながら、ボソリと言った。


 「私、なれなかったんです」

 「えっ……」


 少し、沈黙が流れた。


 その間、サライの管理人の部下がやって来て、焚き火に、新しい薪を積んだ。


 「今日の、私たちの、盗賊団との戦い、見てました?」


 ルナが再び、口を開いた。


 「はい、ちょっと見てました」

 「私、戦闘センス、ないんですよね」

 「そんな事……十分、敵と渡り合っていたと思いますけど」

 「ウテナやフィオナさんとは、明らかに見劣りしていたと思います」

 「それは……」

 「敵も、1人が精一杯でした。その一人も、ウテナに倒してもらいました」

 「……」


 ルナの青い目には、どこか哀愁が感じられる影が帯びていた。


 ……劣等感、感じてるのかな。


 マナトにも、経験があった。前の世界での。


 「……僕なんて、ルナさんより弱いと思いますよ」

 「えっ?」

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