38 西のサライ/ジンの噂

 管理人の言葉を聞くと、皆、緊張した面持ちになった。


 マナトはジンという言葉を聞き、とっさにミトを見た。


 ミトは、眉をひそめ、少々、気分を害したような顔になっていた。マナトに気づくと、顔は和らいだが、ただ、頷いたのみだった。


 ケントとフィオナが振り向いた。


 「お前ら、ちょっと、俺、管理人と話するわ。ラクダ、中庭に入れといてくれ」

 「あなた達もね。とりあえず、宿泊の準備しててちょうだい」


 マナト達はとりあえず、サライに入って宿泊の準備を始めた。ラクダ達を中庭へ移動し、積んでいた荷を降ろす。


 「ちょっと、ラクト、今日はぜったい、宿泊スペース間違わないでよ……!」


 ウテナがラクトに寄って来て、小さい声で注意した。


 「ま、間違わねえよ……!」

 ラクトは狼狽しながら答えた。


 「ミト、大丈夫?」


 マナトは心配になって、荷物を宿泊スペースへと運ぶミトに声をかけた。


 「うん、大丈夫。ちょっと、ビックリというか、動揺はしたけどね」


 ミトは、普通の表情に戻っていた。


 「そう、それならいいんだけど」

 「ケント隊長は……」


 ミトが、門のあたりで座って話をしている、ケントを見た。


 「これ以上の進行を中止するかどうかの判断を、迫られているよ」

 「えっ!ここまで来て?」

 「うん」


 やはり、それだけこの世界において、ジンに対しては警戒に警戒を重ねているということだ。


 「……正直、まだイマイチ、僕にはピンと来ていないんだ」

 「ジンのこと?」

 「うん。僕はこの世界に来てまだ日が浅い。長老から、ジンについていろいろ教えてはもらったんだけど」

 「まあ、そうだろうね。僕も幼い頃にジンに連れ去られて以来、会ったことはないし。でも、僕みたいな境遇の人は、たくさんいるよ。誘拐された者、殺された者、取り憑かれて狂人となった者と、被害の程度は人それぞれ違うけど」

 「そうなんだ……」

 「でも、さっき盗賊団と戦いながら、ちょっと思ったんだ。万一、ジンに襲われても、今なら、もしかしたら、ジンにもある程度、抵抗できるかも」


 ミトから、穏やかでいながらも、強い意志が感じられた。


 「さすがに連れ去られた時は、幼かったからね。それに今は、ケント隊長、ラクト、そしてマナトと、みんないるからさ」

 「うん、そうだね。僕もそう思う!」


 マナトの言葉に、ミトは笑顔で答えると、宿泊スペースへと消えて行った。


 ラクダ達は、中庭で座って、のびのびとくつろいでいた。


 本当に、朝、一日一回の食事だけで、ずっと、彼らは歩いてきた。マナトや他のメンバー達は、なんだかんだ、途中で携帯食糧や水を摂取しながら、歩いているのだ。


 ……ラクダって、実は凄い生き物なんじゃないか?


 マナトがラクダを見ていると、


 「ちょっと、いいですか?」


 ルナが話しかけてきた。

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