592 サーシャの才能

 ……あの左拳に右を合わせ……ダメ!!間に合わない!!


 サーシャの不意打ちにウテナの反応が一瞬遅れた。


 「くぅぅっ!!」


 ウテナが空中で無理やり身体を捻る。


 ――フ……!


 サーシャの左拳の風圧がウテナの顔に触れる。まさにギリギリのところで回避。


 「ウテナ!!」

 ルナが叫んだ。


 「大丈夫よ!」


 応え、ウテナは空中で反転、攻撃を避けたことで崩れた体制を立て直す。


 ――スッ……。


 両手で地面に着地。


 「よっと……!」


 ――タッ、タッ……!


 ウテナはバク転しながら、ステージ中央へ。


 「!」


 ――タタタ……!


 眼前、サーシャがまっすぐ向かってきている。


 ……は、速い!


 ――ブンッッ!!


 ウテナがそう思うときにはもう、サーシャの2撃目が飛んできていた。


 「な、なんて無駄のない動きなの……!」


 ステージ上手側、フィオナは目を細めながら言った。


 先の一瞬……空中で崩れた体制を立て直しをはかったウテナに対し、サーシャは左拳を振り抜いた勢いで反転、そのまま空中で一回転して、ウテナと入れ替わるようにオベリスク風の石柱に足で垂直に着地。


 さらにサーシャはそのまま石柱を蹴って跳躍。ウテナへと追撃を仕掛けていた。


 「あ、あのウテナに……」

 「打撃戦を仕掛けてやがる……!」


 ライラとオルハンも唖然として、サーシャを目で追う。


 「い、いや、それ以上にあの動きは……!」


 フェンが言った。


 「ウテナの動きに、似てないか……!?」

 「!?」

 「た、たしかに……!」

 「いやちょっと待って!?」


 ライラがフェンを見て言う。


 「ウテナの動き真似するなんて、そんなのこの国のどこを探しても……!!」

 「ああ。そんな者、いるはずがない……!」

 「……それができるほどの相手って、ことなんだろ」


 オルハンが腕を組んでサーシャを睨みつけた。


 「途中から、なんとなく気になっていたが、いまようやく分かったぜ」

 「えっ?」

 「ウテナだけじゃねえ……さっきから、あの金髪女がやってるのは、これまでここで、サロン対抗戦で戦っていた者たちの、戦略や動き……すべて真似てるんだよ!」

 「!!」

 「な、なんて才能なの……」


 ステージ上で、丈の長い黄色いスカートと長い金髪をなびかせながら激しく戦うサーシャを、フェン達は凝視した。


 まるで、一手前までの展開が、そっくりそのまま鏡写しになったように、サーシャが攻撃を連続に繰り返し、面食らったウテナは回避を繰り返すかたちになっている。


 「このままじゃダメだ!!ウテナ!!とりあえず離れろ!!相手のペースに引き込まれるな!!」


 オルハンが叫んだ。


 「くっ!!」


 ――タッッ!


 ウテナが後方へ大きく跳躍。サーシャから離れる。


 「……」


 サーシャは追わず、その場で静止した。


 「あ……!!」

 「し、しまっ……!!」


 一瞬、ウテナも、オルハンも、気づくのが遅れた。


 「……」


 サーシャが下を向く。足下には、ダガー。


 ――ズズ……。


 ダガーを、サーシャが引き抜いた。


 「な、なんてヤツだ……」

 「……」


 ……ウテナは、この国で一番強い。だけど……、


 フェン達のすぐ後ろで、戦いを見ていたルナは、思った。


 ……あ、あの人が負ける姿を、どうしても、想像、できない……。

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