593 マナトとムハド、サーシャについて

 向かいの、ステージ下手側。


 「す、すげえ……!」

 「サーシャさん、どんどん強くなってるね……!」


 ラクトとミトが、ステージを見上げている。


 「やったぁぁあああ!!サーシャさまぁぁあああ!!」


 そんな2人の隣では、召し使いが歓喜の声をあげている。


 「……」

 「さ、サーシャお姉さま、か、カッコいい……」


 ステージから離れた後方側では、シュミットは言葉を失い、ニナは目を輝かせている。


 「お、おい、サーシャって、あんなに強かったのか……?」

 「い、いや、正直こんな……」


 また、その他のメンバーも、どちらかといえば召し使いよりも、シュミットのように、サーシャの余りある強さに動揺している者たちのほうが、多い様子だった。


 ――ザッ……。


 ステージ上では、サーシャがゆっくりと、ウテナから距離を取りつつ、弧を描くように歩き出していた。


 その手には、ダガーが握られている。


 「……」


 ……おそらくだが。


 ニナとシュミットと一緒に観戦しながら、マナトは思った。


 《私の肉体は、その細胞、遺伝子ひとつひとつまで、このヤスリブのものよ。私は、一度、死んでいるの》


 サーシャが記憶を取り戻したときに、言った言葉。


 「……」


 ……つまりサーシャさんは、以前との肉体……それこそ、細胞レベルでの違いを、自覚しているんだ。


 そして、その肉体を確認するかのように、サーシャは戦っている……そういう風に、マナトには見えていた。


 「マナト」


 マナトのもとに、ムハドがやって来た。


 「いやぁ、サーシャがここまで強いなんて、誰も想像できてなかったぜ」


 商隊のメンバーの様子を見渡しつつ、ムハドが言った。


 「ええ、そうですね」

 「そもそも、サーシャがステージに上がるの決まったとき、マジで勝敗度外視だったんだが……」

 「えっ?あっ」


 ……そうだった。


 マナトがミトとトイレに行って戻ったときには、サーシャがステージに上がっていた。


 「そういえば、どうして、サーシャさんが?」

 「ジンの件や、帰還のことも考えると、俺たちキャラバンはできる限り傷つかない、戦わないほうがいいだろうと、サーシャ自身が立候補してくれたんだ」

 「あぁ、なるほど~」

 「サーシャなりに、気を遣って、ということだろうと、俺も含め、その時いた全員、思った」

 「たしかに」

 「いくらサーシャがセンスあるっつっても、あのウテナという人物が並みの強さでないことは、先の戦いで分かっていたからな。だから、危なくなったら、すぐに降参しても構わないと言っておいたんだが……」

 「フフフ……」


 マナトは苦笑した。ムハドも苦笑気味に言う。


 「フフ……だが、あのサーシャの姿を見る限り、完全に勝つつもりで、ステージに立ってたんだな」

 「ですね」

 「……あと、やっぱり、」


 ムハドはチラっと、前方で戦いを凝視しているラクトを見た。


 「……サーシャのヤツ、ラクトを傷つけたのがウテナって、やっぱり思ってるんだろうなぁ」

 「そうですね。……実際、そうだと思います」

 「……やっぱり、そう思うか?」

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