570 マナトの合掌
テッポウウオ……その大きく開いた口から放たれた水柱はオルハンを、観客席のさらに奥、巨大テントを覆っている厚手の布まで一気に押し飛ばしてしまった。
――ボッッフゥゥウウンゥウン……!
オルハンがテントの布に受け止められ、その衝撃でテント全体が揺れた。
――カラカランカラン……!
天井に吊り下げられている、大量のマナのランプも激しく揺れる。
――ドサッ……。
オルハンが力なく倒れた。立つ力も残っていないようで、地面に伏している。
「オルハン!!」
ステージ上手にいたサロンメンバーが数人、オルハンのもとへと駆け寄る。
「先輩~~~!!」
「大丈夫ですか~~~!?」
また、別の場所から、オルハンの後輩と思われる若者たちも駆け寄っている。
「……」
その様子を、マナトはステージの上から見ていた。
――カラン、カラン……。
テッポウウオの衝撃によるテントの揺れもなくなり、天井のマナのランプの揺れも収まった。
そして、
――ザァぁ~~~~!!
拍手と歓声が混ざり合う。
「す、すげぇぇええええ!!」
「オルハンに勝ちやがった!!」
「マナトっつったよな!!やるじゃねえか~!!」
まさに、勝利の祝福。それは一斉に、ステージ中央に立つマナトへと注がれた。
「……フフっ」
……はは、なんか、らしくないなぁ。
マナトは思いながら苦笑した。そしてなおも、オルハンのほうへと視線を向けていた。
……よかった。オルハンさん、無事のようだ。
マナトは思った。
サロンの仲間の女性と後輩の若者に、オルハンが抱き起こされている。
少し会話もしているようだ。
観客席より奥のため、遠くて声は聞こえないが、オルハンが言っていることは、なんとなく分かった。
負けて、すまない、と。
それに対して、仲間の女性が首を強く振っている。その後、オルハンの胸に、顔をうずめた。
やがて、医療班がやって来て、オルハンを連れてゆく。
「……」
――スッ。
ステージ中央……マナトは、そっと、座した。
合掌。オルハンのほうへ、一礼。
――おぉ……!
「オルハンに、儀礼を施してる……!」
「な、なんて紳士なヤツなんだ……!」
「……マナトぉぉおおお!」
再び、喝采を浴びた。
マナトはステージを降りた。
「おいマナトすげえじゃねえかぁぁあああ!」
「ほんとに!すごい!勝った!やった!」
ラクトとミトがほぼ体当たりするようにマナトにボディタッチしつつ、言った。
「あはは、ありがとう」
「おいマナト、やったじゃねえか」
ケントが笑顔でマナトの肩を抱いた。
「ありがとうございます」
「いつの間に、あんなの出来るようになったんだよ?」
「あんなの、ですか?」
「最後のアイツを出し抜いた薄い水の膜……あれ、水の鏡ってことだよな?」
「あぁ、そうですね。えっと……その場で考えたというか、即興ですね」
「マジかよ!はっは!すげえな!」
「オルハンさんのお陰なんですよ。なんか、オルハンさんと戦ってたら、僕も、僕もって思えて」
「へぇ!あっ、たしかにアイツも水の盾を……」
――ザッ。
「!」
4人は振り返った。
「2戦目の相手か……」
ステージ上手側から、一人上がってきて、マナト達を見下ろしていた。
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