571 フェンサロン、次の対戦者

 「むむむ!」


 ステージから少し離れたところで、シュミットやサーシャの召し使いと一緒に観戦していたニナが、ステージの上に立った者を睨みつけ、言った。


 「ボクのほうが、背が高いね」

 「そ、そうでしょうか……」

 「いや、残念ながらそれはないですわ、ニナ」


 シュミットは言葉を濁したが、召し使いははっきりと言った。


 「む~。あっ!」


 そんなところへ、マナトがやって来た。


 「いえ~い!マナトお兄ちゃん!」

 「いえ~い」


 ニナがマナトへハイタッチした。


 「マナトさん!お疲れさまでございました!」

 「感動いたしました!能力者としても、マナトさんはすごい方だったのですね!」

 「あぁ、どうもどうも……」


 召し使いとシュミットに言われ、マナトは返事すると、へなへなと地べたに座り込んだ。


 「ありゃりゃ、大丈夫ですか?」

 「そりゃあ、あんな激戦でしたものね……」

 「あはは……いや~、あんなに動いたの、久しぶりだったかもです……」

 「あっ、そうだ!マナトお兄ちゃん!」


 すると、ニナがステージ上を指差した。


 「ボクのほうが、背が高いでしょ?」

 「えっ?え~っと……」


 ……いや、ニナさんよりは、高い。


 そう思いながら、改めてマナトはステージを見上げた。


 ニナよりは高いが、それでも、結構な低めの身長ではある。


 茶色と腰から下は茶色と白を基調とした肩掛けと腰巻きの服を纏い、背中には、細く長い、輝く両刃のつるぎを、2刀装備していた。


 「さあ!上がってくるのであります!」


 ステージ上から、高めの、少女のような声が、響いた。


 「……ちぇっ、ハズレだったぜ」


 ラクトとサーシャが、マナト達のいるところへとやって来た。


 決勝戦にも関わらず、相変わらず、こっちの陣営は呑気にくじ引きで対戦者を決めている。先はマナトが当たりくじを引いた。


 「ラクト、まだ戦う気なの?」

 「そうなのよ」


 マナトの問いに、ラクトでなく、サーシャが口を開く。


 「さっき頭に思いっきり鉄球くらったばかりなのに……マナト、ちょっと言ってやってよ」

 「いやもう直ったし」

 「直ってないでしょ!」

 「あはは……」


 ……ラクト、すごいなぁ。

 マナトはしみじみ思った。


 とてもではないが、オルハンと戦った後のこの状態で、続けて戦うようなことは、マナトにはできない。


 ……でも、気持ちはなんとなく、分かったけど。


 勝利したときの、ステージの上で浴びた歓声は、いまも、マナトの脳裏に響いている。


 とてつもない、快感。


 「……それで、誰が次に?」

 「アイツだよ」

 「……あっ」


 ――タッタッタッ……。


 ラクトの後ろ指が、ちょうど、ステージ上手の階段を上るメンバーを差した。


 「おっ、彼は……」


 マナトは見覚えがあった。


 かつて、湖の村の交易に向かう前に寄ったサライで、ラクトとともに痛飲していたメンバーだ。


 彼も、今回の交易に参加していた。


 「……てか、彼はこれまで、くじ引き取ってなかったんじゃ?」

 「だな。運のいいヤツめ」

 「……彼、」


 するとサーシャが、横目でステージに上がるメンバーを見ながら、言った。


 「相手があんな小娘なら、俺でもやれるって思ったみたいよ……」

 「あぁ……」


 ……意外と彼、そういうとこ、あるのね。

 マナトは思った。


 「でも、意外と強かったりして、あの小娘さん」

 「いや、強いどころか……」


 マナトが冗談混じりに言うと、ラクトが真面目に言った。


 「アイツ、ミリーって言って、諜報部隊の隊長だよ。俺と同じか、それ以上に強いぜ?」

 「えぇ……?」

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