24 マナの洞窟/マナト、能力者へ①

 不思議な感覚だった。


 上からマナトの頭へと滴り落ちてくる水、しかし、頭に当たったその水は、はじかれることがない。


 その水が頭に当たってはじかれて、肩や他の身体に流れてびしょ濡れになるような感覚がないのだ。


 頭から、その水が体内へ入ってきているような感覚……いや、どちらかといえば、頭に当たった瞬間に、滴り落ちるそれがすぐ消えてなくなるような感じだ。


 やがて、頭上から降り注ぐ水が、止んだ。


 「……オワリダ。オマエニ、マナノ源泉ヲ、ソソイダ。目ヲアケロ」

 人魚の主が言った。


 マナトはゆっくりと目を開いた。


 「……おぇ?」


 マナトはフラっとして、足を取られそうになった。


 なぜだか分からないが、心がかき乱される。


 これは……どこかで同じような覚えがあると、フラフラしながら、マナトは考えた。


 ……あれだ。まずいお酒を上司に無理矢理飲まされて酔い、カラオケで裸になって辱められ、家に帰れなくて休めず、朝になってまた職場に戻る時、心に沸き上がってくる、あの感情……。


 ……何を今さら。慣れたものじゃないか。


 マナトは顔をブンブンと左右に振り、両手で頬をパンパンと叩いた。


 若干、吐き気のような気持ち悪さはあるが、これくらいなら、少し休めば、大丈夫だ。


 「……ホウ。タオレナイシ、一滴モハキダサナイカ」


 目の前の人魚の主の、正面から見た顔が少し歪んで見えた。


 「に、似たような、経験が、あるというか……はは」

 マナトは少し笑いながら言った。


 「ヨロコベ、フリード。オマエノヨミドオリ、ドウヤラ、儀式ハ成功シタラシイ」

 「うむ。戻ってこい、マナトよ」


 湖のほとりまで戻ると、マナトはドサっと、大の字になって透き通ったトパーズ色の砂の上に倒れ込んだ。


 「少し、休んでいいですか?」

 「うむ」


     ※     ※     ※


 「……あっ」


 マナトは目を覚ました。寝てしまったようだ。


 「おう、起きたか」

 長老が言った。


 さっきマナトが立っていたところに、長老が立っていて、その先には、人魚の主。何やら話をしていたようだ。


 「すみません、寝てしまったみたいです」

 「問題ない。5分も経っておらん」

 「えっ?」


 ……マジですか。1時間は寝た感覚なんですけど。


 「よし。マナト、一応、確認しておこう。湖の水を、手で触ってみろ」

 「えっ、あっ、はい」


 マナトは靴を脱ぎ、はだしになって湖に少し入った。


 ――チャプン。


 湖の水に両手を突っ込んだ。地底湖ということもあってか、冷たい。


 「水をつかんでみろ」

 「……はい?」


 長老の言っている意味が分からなかった。


 「イメージするんじゃ。もうお主はそれができる」

 「あっ、はい」


 ……ええと、水をつかむ、か。


 一度、水から手を抜いて、今度は素早く右手を水に突っ込み、川で魚をわしづかみするようなイメージを頭に浮かべながら、右手の指を動かして水から抜いた。


 ――ブヨヨ……。


 水がこぼれ落ちることなく、透明なゼリーのように右手の中に収められている。


 「あっ、つかめました。いや、つかめました!えっ!なんで!?」


 マナトは2回言った後、目の前で起こっている現象が理解できずに叫んだ。

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