256 戦闘②/ロアスパインリザード

 「させるかよ!!」


 ラクトが動いた。


 「……えっ!?」

 「は、速い!」


 ニナとシュミットは、そのラクトの圧倒的な運動神経の高さに唖然とした。


 一瞬でロアスパインリザードの横に回り込んで、ラクトはダガーで一閃を放った。


 ――ガッ!


 「すご~い!」

 「や、やった!」

 「いや、ダメだ!踏み込めてない!」


 ニナとシュミットは喜んだが、ミトが首を振った。


 鱗に傷はついたものの、その奥にある身体へダガーの刃が届いてはいない。


 ――シュ~!!


 ロアスパインリザードが、横から攻めてきたラクトに気づき、前肢を振ってなぎ払う。


 ラクトはサッと身を引いた。


 ――ブンッ!

 尻尾が振り回される。


 「ぬっ!」


 鱗が数枚、まるで散弾のように散らばりながらラクトへ向かって飛ぶ。


 ――カキキンッ!


 ラクトは後退しながら、ダガーで2枚を撥ね飛ばした。


 「ラクト!もう一枚!!」

 ミトが叫んだ。


 「なにっ!?」


 ダガーではじき飛ばした鱗の一枚のすぐ後ろ、もう一枚の鱗が飛んで来ていた。


 「クッソ2枚刃かよ!!」


 ダガーを振り切った手を戻す時間はない。とっさにラクトは顔を傾けた。


 ――スッ!


 鱗がラクトの頬をかすめる。


 ――ツ~。


 ラクトの頬が少し切れ、血が流れた。


 「ラクトさん!?」

 「大丈夫。ちょっと、かすめただけのようです」


 叫ぶシュミットに、マナトは言った。


 「……へへっ」

 ラクトがニヤリと笑った。


 「ラクト!よくやった!!」


 いつの間にかケントが、ラクトの別方向からロアスパインリザードに迫っていた。


 跳躍。飛びかかると同時に、大剣を振り下ろす。


 ――ザンッ!!


 切れた鱗がはじけ飛ぶ。


 大剣の衝撃で、ロアスパインリザードが横にのけぞった。


 「よし!!」

 「いや、まだ油断するな!」


 ――シュ~!


 一体に攻撃を当てたことで、別の一体のロアスパインリザードが、ケントとラクトに標的を変えた。


 2体のロアスパインリザードと、ラクトとケントが激しくぶつかり合う。


 「ラクトさんとケントさん、なんて、お強いんだ……!」


 シュミットが感動した様子で、目の前の戦いを見ていた。


 「キャラバンの村では……」


 戦いを身ながら、マナトはシュミットに話し始めた。


 「キャラバンになるための訓練があって、その最終試験が、獰猛種の生物との一騎討ちなんです。そこにいるミトも、いま戦っているラクトも、ケントさんも、その戦いをくぐり抜けて、いま、こうして交易をしています」

 「そんな危険なことを……!」

 「僕も、ミトの最終試験をこの目で見ました。自らよりも数倍の体格のグリズリーに無傷で刺し殺していた」

 「……」


 シュミットが、ミトを見てつぶやいた。


 「サーシャさまが、キャラバンの村に依頼された理由は、これだったのか……」

 「そう、なんですかね?」

 「……私は岩石の村からほとんど出たことがなく、足を運んだとしても鉱山の村までで……こんな危険と戦いのある旅を、キャラバンの皆さんはいつも繰り広げられているんですか?」

 「なにもなければ、平和なんですけど……割としょっちゅうかもです、あはは」


 マナトは苦笑した。

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