492 前夜⑦/キーフォキャラバン、ハウラ

 キーフォキャラバン。


 別名、死の商人。


 その者達が運ぶものは、主に、剣、槍、また、弓やボウガンを中心とした武器と言われている。


 それら自体は当然ながら、普通のキャラバンの交易でも扱われているものである。


 国を盗賊や獰猛種の生物たちから守るために、ある程度の武器は必要となる。


 問題はやはりその流通量で、国が別の村や国を滅ぼすだけの量の武器を流通させることが、キーフォキャラバンの行う交易だった。


 ある国が、大量の武器を流通したという情報を聞いただけでも、近隣の国や村は、少なからず不信感を、その国に強めてしまう。


 それはやがて、戦争へと繋がってゆく……まさに、死を運ぶ商人。クルール地方はおろか、ヤスリブ世界全体的に、禁止され、また、犯罪とされている、商売方法。


 しかし、ハウラ商隊は、交易品としての武器を、ひとつも持ってきてはいなかった。


 「あっ、そうや」


 ハウラがアブドに聞いた。


 「今日、この国のトップが集まる公爵の皆さんの会議が、あったんですよね?」

 「ああ」

 「どういった方向に、決まったんです?」

 「……」


 ハウラの顔を、アブドはまじまじと見つめた。


 はつらつとした、無邪気さのあるネコのような瞳は、そのままハウラの魅力となっている。


 ただただ、そこから伺えるのは、好奇心のみ。


 あの、会議前に出会った若者たちと、同じ眼差し。


 「……フフっ」

 「なにを笑ってますのん?」

 「いや、すまない。あなたの瞳が、素敵だったのでね」

 「あら……」

 「変な意味はない。若く、不敵な瞳をしているということだ」

 「ウフフ、お上手いですわぁ」

 「決まったこと、か……」


 アブドは、ハウラ、また、周りにいるキャラバン達に向かって、言った。


 「他でもない。いまこの国に襲いかかっている驚異に対して、我々はまさに、あとにひかない決意をしたということだ」

 「おっ、そうでっか!」


 ハウラは、満足そうな笑みを浮かべた。


 「ジンがいることによって、幸福がさまたげられる。活動も妨げられる。そして、願望が満たされられない。そんなこれまでの歴史を、ここで、この国で、変える……」

 「あ、当たり前やろ……」

 「!」


 ずっと床に転がりながら悶えていたユスフが立ち上がった。


 「そ、そのために、俺らが、来たんやからな」

 「うむ」

 「それで、ジンは……」

 「待ちたまえ。もう一組、呼んである」


 ――カチャッ。


 宿の扉が開く音がした。


 アブド、またハウラ商隊も皆、振り向いた。


 「あら、いい男……」


 宿に入ってきた5人ほどの一集団の、先頭の男を見たハウラが、つぶやいた。


 「来てくれて感謝する、ムハドくん」

 「……」


 一集団の、先頭の男……ムハドが、アブドに手を合わせ、一礼した。

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