586 激突/観衆、恐怖

 ――ヒュッッ!


 サーシャの一閃。銀色のやいばが、一瞬の弧を描き出す。


 「間に合えぇぇぇ!!」


 ギアの入ったウテナの、下から上へと突き上げるナックルダスターをはめた右拳が、ダガーの剣先に当たった。


 ――ガリッッ!!


 「!」


 その衝撃で、サーシャのダガーを持つ腕が弾き飛ばされる。


 「力がつよっ……!」

 「ぇあああ!!」


 ウテナは突き上げた右拳の勢いそのままに飛び上がった。


 そのまま横向きに、身体を回転。


 「おりゃあああ!!」


 ウテナの、まわし蹴り。


 ――パシッッ!


 「えっ!?」


 ウテナの円心力全開の蹴りを、サーシャが右手で受け止めた。


 「はっ!?!?」

 「う、ウテナの蹴りを……!?」

 「止めた、だと……!?」


 ステージ上手で応援していたライラもフィオナもオルハンも、その光景に呆然としてしまった。


 「……」


 ――グッッ。


 遠目にも、サーシャが右手首から右腕にかけて力を入れているのが分かる。


 「あなた、意外と軽いのね……」


 ウテナの足を掴んだままサーシャはつぶやくと、右腕を振り上げた。


 「キャッ!」


 その手には、ウテナがしっかりとつかまれている。


 「ヤバいたたきつけられる!!」

 「よけて!!ウテナ!!」

 オルハンとライラが大声をあげた。


 ――ブンッッ!!


 地面に向かって、サーシャが思いっきりウテナを振り下ろした。


 「ウテナぁぁ!!」

 ルナの叫び声がこだまする。


 「……ナメんじゃないわよ!!!!」


 ウテナの右拳が一瞬、動いた。


 次の瞬間、


 ――ドゴォォオオオッッ!!!!


 耳をつんざく音とともに、ステージを中心に衝撃波が広がる。


 ――バキバキッッッ!!!


 そして石に亀裂が入るとともに、ステージ全体に白い煙が舞い上がった。


 「ウテナ大丈夫!?」

 ルナは大声で言った。


 次第に、煙が薄くなってゆく。


 「ウテナ……あっ!!」


 白いもやがかかりつつも、ステージが見えてきた。


 「……」


 ウテナが、しゃがんでいる。


 「あっ……!」

 「うっ……!」


 観衆側が、息をのんだ。


 そのウテナの周り……ステージが、半球状にえぐられている。


 そして、そこを中心にして、ステージ全体に亀裂が入ってしまって、それはステージ端まで続いているものもある。


 先にマナトとオルハンが戦った際につけた亀裂が、もう、どれか分からない。


 「あっ、おい、あれ……!」

 「金髪女が……!」


 ウテナから少し離れたところに、ダガーを逆手持ちに持っているサーシャがいた。


 「……」


 腰を低くして、いつでも応戦できる構え。


 危険を察知したか、ウテナがインパクトを放つ瞬間に足を離して避難していたようだ。


 ――ザッ……。


 ウテナが立ち上がる。


 「な、なんなんだこの戦い……」

 「こ、こええよ……」


 歓声は、ない。もはや観衆のほうは、2人の戦いに対して、身の危険と恐怖を感じ始めている。


 「……いや、ウテナはともかくとして、」


 その中で、オルハンが唖然として、言った。


 「あの女、強くね……?」

 「ウテナの蹴りが止められるのなんて、はじめて目の当たりにしたわ……!」

 「そんな……」

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