587 ステージ上手、下手、それぞれの反応

 いまだかつて、こんなにウテナが戦いにおいて苦戦しているところを見たことが、なかった。


 「あ、あんなウテナが振り回される姿、はじめて見たんだけど……」

 「ウテナは強い、でも、病み上がりだ……」

 「対して、相手は……」

 「……」

 「……」

 「おいウテナ!!なに押されてんだよ!!」


 落ち込んでゆく空気を切り裂くように、オルハンが声を張り上げた。


 「むっ」


 ウテナが振り向いた。


 「おい!!聞いてんのか!!このままだと負け……!」

 「負けませんから!!!」

 「おぅふ?!」

 「あたし、この女に、ぜったい負けたくないんで!!!」

 「お、おう、そうか……」


 振り返り、ウテナがサーシャを見据えた。


 「な、なんか、ウテナ、吹っ切れたのかしら……?」

 「あ、ああ。さっきまでの怯えが、まったくなくなってるんじゃないか……?」


 ライラとフェンが、顔を見合わせる。


 「……」


 フィオナもただ、無言でウテナを見守っている。


 「ウテナ!!がんばって!!」


 ルナの声がステージに響いた。


 ――タッ。


 自ら作り出した、クレーターのようにへこんだステージの半球から、ウテナは脱出した。


 「……んっ?」


 と、サーシャがしゃがんでいる。


 「……」


 ウテナに砕かれた、手のひらサイズのステージの破片の石を持って、立ち上がった。


 「……さっきの人の、見よう見まねだけど」


 サーシャが大きく振りかぶった。


 「!」


 ――ブンッッ!


 ステージの破片がウテナに向かって飛んでくる。


 ――タタタ……!


 ウテナの細かいステップで回避。


 ――ゴ……!。


 「後ろで……!」


 おそらくオベリスク風の石柱に、石が当たったであろう音。


 だが、ウテナは振り返っている暇はない。


 サーシャが動いている。視線を離せない。


 ――タッ!


 ……今度は、逃がさない!


 ステージを回り込んで背後を取ろうとするサーシャの軌道に横からつくかたちで、ウテナも跳躍。


 「!」


 ――ザッッ!


 サーシャが立ち止まった。応戦する構え。


 ――ヒュッッ!


 飛び込みざまウテナの右拳の突きを、サーシャがグッッと身体を仰け反らせて回避。


 ……さっきみたいに捕らえられないように……!


 ――サッッ!


 着地ざまウテナがすぐに細かく旋回。切り返して、すぐにサーシャへ。


 「!」

 「たあああ!!!」


 連続攻撃に次ぐ連続攻撃でサーシャに畳み掛ける。


 だんだんと、ステージ端に、サーシャが追い込まれてゆく。


 「いける!!」

 「もう一息よぉぉおおお!!」

 「いっっっけえええ!!」


 ステージ上手側の声援がこだました。


 対して、ステージ下手側。


 「いやぁぁあああサーシャさまがぁぁあああ!!」

 「い、いや、召し使いさん、まだ大丈夫ですよ。サーシャさん、無事、無事ですから……」

 「いやぁぁあああ!!」

 「め、召し使いさん落ち着いて……!」


 サーシャになにか起こる度に、召し使いが絶叫しているのを、隣でマナトがなだめていた。


 「いや~、つええなあのウテナっていう相手」

 「ですね。さっきのステージに放った一撃とか……」


 サーシャの強さに、唖然とするステージ上手側のフェンサロン……と、同じように、ステージ下手側でも、ウテナの強さで盛り上がっていた。

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