588 ラクト、どっちつかず

 「ヤバいウテナが本気出してきてるぞ!」


 マナト達より少し後ろで観戦しているケントがステージを指差した。


 ステージ上、ウテナの繰り出す連続打撃で行く手を阻まれ、サーシャがとうとう外野を背にしてしまっている。


 「ああああサーシャさまがぁぁあああ!!!」

 召し使いが絶叫した。


 「いやぁ、強いっすねぇ~!」


 ケントの隣で見ていたリートが言った。


 「さっき、ちょっとぎこちなかった感じだったっすけど、いまの動きのほうが、なんていうか、しっくりくるっすね」


 先の、ナジームサロンメンバーを相手にしていたとき、少しぎこちなかった動きとは打って変わって、いまは、それこそウテナ本来の躍動感が出ていた。


 「ウテナ、ギアがかかってきた感じがするぞ。俺たちと交易したときより、格段に強くなってるんじゃねえか?」

 「そうなんすね」

 「当たり前っすよ!リートさん!」


 すると、いつの間にかそばにいたラクトが、誇らしげに言った。


 「ウテナが盗賊殴ったとき、盗賊のヤツ、遥か向こうにまでぶっ飛んでましたから!」

 「へぇ~!」

 「い、いや、待て!」


 ケントが再び指差す。


 ――タッ!


 ステージ上、サーシャが飛び上がった。


 「逃がすわけ……!」


 ――ヒュッ!


 「!?」


 ウテナに向かって、サーシャが手に持っていたダガーを投げた。


 「くっ!」


 空中で身体をひねってダガーを避けるが、ウテナはサーシャへ距離を詰められない。


 ――ヒラッ……。


 サーシャの服が、フワリと揺れ、その次の瞬間には、ステージ中央に降り立った。


 「いやでも、ダガーは失って……!」


 ――キラッ……。


 「!?」


 なにかが反射した光。


 「な……!」


 一瞬、ウテナを横を向く。


 自らのインパクトでつけたステージのヒビに、サーシャの投げたダガーが突き刺さっていた。


 「サーシャさまぁぁあああ!」


 召し使いが安堵の叫び声をあげた。


 「いやぁ、あのお姫さま、強いねぇ~」


 遠巻きで見ていたジェラードが、ケント達のもとへやって来て言った。


 「当たり前っすよ!ジェラードさん!」


 ラクトがまた口を開く。


 「サーシャと一緒に戦ったときに、コイツと一緒に戦ったら、負ける気しないってくらいの、戦闘力でしたよ!」

 「へぇ!」

 「……フフッ、ラクト」


 セラも前に出てきた。


 「あなた、どっちの味方なのかしら?」

 「え……?」


 セラに言われて、ラクトはステージを見た。


 「……ああああ!!どっちを応援したらいいかわかんねえ!!」


     ※     ※     ※


 「ちょ、ちょっとこれ、危ないんじゃ……!」


 特別席が、少し騒がしくなっていた。


 「わ、私は帰る!」

 「私も!」


 ウテナとサーシャの戦いを目の当たりにした貴族や公爵の中で、その場を離れようとする者すら現れ始めていた。


 「す、素晴らしい……!」


 そんな中、アブドは身を乗り出して、その激しい戦いを見ていた。


 「……」

 「……」


 アブドの隣にいる、ユスフとハウラもまた、呆然とその戦いを見守っている。


 ……これなら……これなら、本当に……!

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