541 フィオナ、ウテナを見ながら

 「……えっ?フィオナ、そういうこと?」

 「ええ、そういうことよ」

 「なるほどねぇ……ウテナと同じ人種ってことなのね。……あっ、ちょっと、フィオナ……!」

 「えっ?」

 「こっち見てるんだけど……!」


 ステージ上、ラクトが立ち止まって、こちらを見下ろしている。


 相手のアイーダサロンメンバーは、ステージを降りて、医療班の治療を受け始めていた。


 「……」


 フィオナは、チラっと、隣のウテナを見た。


 ナジームサロンのメンバーを倒し、勝利を収めて皆の喝采を浴びながらステージを降りてきてからは、ウテナはマントを纏うことは、もう、しなかった。


 かつての快活な表情……とまではいかないが、サロンの皆に話しかけられれば自然な笑顔で応えるし、落ち着いた表情に戻っている。


 なにより、それまでの、なにかに怯えるような震えが、止まっていた。


 戦いを通して、ウテナの中でなにかが変わったのだと、フィオナは思った。


 「……」


 ウテナも、無言でラクトを見つめ返している。


 ……なにか、目で話し合っているようにも見える。


 「……ほっ」


 と、ウテナは小さく、ため息をついた。


 ラクトが戦っているのを見ていたときの、一切目線を外すことのない、少しこわばった表情は、和らいでいる。


 代わりに今は、どこか、安堵の表情。


 ……やっぱり、なにかあったみたいね。


 2人が発見されたとき、ラクトがウテナをおんぶして、そのまま倒れ込んだように、ラクトにウテナが覆い被さるように倒れていて、ラクトのほうには深々と、左肩にダガーが突き刺さっていたという。


 ウテナがラクトとの馬車の旅について話してくれているとき、そのことについて、フィオナは一度、ウテナに聞こうとした。


 でも辛そうな顔を浮かべるウテナを見て、やめた。


 「……」


 フィオナはウテナの先に座っている、サロンメンバーに扮しているミリーも、チラっと見た。


 ミリーは諜報員としてウテナの護衛を任されていたが、その現場には居合わせなかったとのことだった。


 諜報員本部に乱入してきたラクトのことを侵入者と思って攻撃し、交戦した後に、マナトに化けたジンにやられてしまったらしい。


 「……」


 ……詳しくは、分からない。でも、時間が解決してくれるものでも、あるのかも。ただ、


 フィオナは思った。


 ウテナのこれまでの言葉と、表情から察することができることは、ただひとつ。


 ラクトに対して、前に交易で共行したときとは比べものにならないほどの、並々ならぬ特別な感情を抱いている。


 やがて、ラクトがステージ下手側へと振り向いた。ステージ上手には、ラクトを迎えようと、ミトやマナトなどが手を振っている。


 「……てか、それってヤバくない!?」


 ライラが大声でフィオナに言った。


 「私たちの決勝の対戦、アイツらってことになるじゃん!ウテナみたいなのが、あっちにいるってことでしょ!?」

 「ええ、まあ……あっ、ちなみにさっき、アイーダには負けてしまったけど、ミトくんもおそらく、ね」

 「ええ~!!」

 「おい、ライラ」


 前に座っているオルハンが立ち上がって、振り向いた。


 「なに驚いてんだ。強いんだから、決勝まで勝ち上がってきたんだろうが」

 「そういうことだね。……よし!いこう!」


 フェンも立ち上がった。


 その時、


 「ちょい待てや!」


 見知らぬ男がステージに立ち、降りようとするラクトを呼び止めた。

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