542 エキシビションの対戦相手

 「んっ?」


 ラクトが、階段を降りかけていた足を止め、振り向いた。


 「へへ」


 白のラインの入った黒地の装束に、光沢のある緑のベルトという、商人騎士風の身なりに、パーマ頭、濃い紫の垂れ離れ目な男が、笑いながら立っている。


 「あっ?なんだアイツ」


 オルハンがその男を睨み付けた。


 「俺たちのサロンのヤツじゃねえのがステージにいるぞ。おい!お前……!」

 「ちょっと、待つんだオルハン、司会が……!」


 歩き出そうとしたオルハンを、フェンが止めた。


 クセ強めの司会が、少し遅れてステージに立った。


 「ここどぅぇ~!!けっしょぅうのおおん……!!」

 「おい、フェン、通訳してくれ」

 「……どうやら、決勝を前に、エキシビション試合を行うようだね」

 「へぇ」

 「……あのステージの上の彼は、公爵から招かれている、別の地方の商隊の一人で、ええと……戦いたい者は、ステージに立ちたい者はいないかって」

 「なんだ、そういうことかよ!」


 司会の言っていることを、フェンが言うと、再びオルハンは歩き出そうとした。


 「よし、じゃあ、俺が……!」

 「はぁ!?あんたバカぁ!?」


 ライラが怒鳴りながらオルハンを止めた。


 「これから決勝で戦うのになんでその前に体力消耗するようなことするのバカなの死ぬの!?」

 「死なねえよ!死ぬわけねえよ!あんなヤツ!」

 「あぁ~もう!!ムダに五七五なのが余計にムカつくんだけど!!」

 「そこは別にいいだろ!」

 「ライラ、オルハン、ちょっと……!」


 フィオナが2人の肩を叩きながら、ステージ上を見るように促した。


 「茶髪のあんちゃんで構わへんで!はよ戦いたいねん!」


 男は言うと、ステージ上手側の下にいるミト指差した後、ラクトを指差した。


 「最初はそこにおる兄ちゃんと、前の決着つけたろか思たけど、前の戦いで爆乳の姉ちゃんに負けてもうたし、今の戦いを見てる感じ、兄ちゃんのほうが強そうやからな。どうせなら、よりつええヤツとがええわ」


 ――わぁ!わぁ!


 「なんだなんだ!?また乱入か!?」

 「いいぞぉ!やれやれ~!」

 「おいどこぞのサロンの兄ちゃん!クルール地方の俺たちがどれだけ強いか、見せてやれよぉ!」


 ステージを取り囲む観衆が、やんややんやとはやし立てた。


 「……へっ!おもしれえじゃねえか!」


 ラクトが、がぜんやる気になった様子でステージに戻った。


 「ちょっと待って!!」

 「落ち着け!ラクト!」

 「待つっす!ラクトくん!」


 と、ステージ上手側から、仲間が3人、慌てた様子でラクトに駆け寄った。


 「なにか揉めているようだね。どちらにしろ、俺らにとってはいい傾向だ」


 ステージの上のやり取りを見ながら、フェンが言った。


 「あの乱入者と、彼らはなにやら因縁がありそうだ。あの男の強さは未知数だけど、ここで戦って消耗してくれるのは助かる」

 「そうよね!私もそれ思った!」

 ライラもフェンに同調した。


 と、1人が、上手側に手を振った。


 さらに1人、ステージ上に上がってきた。


 「ラクト、ちょっと……!」


 そして、ラクトと一緒に後ろに向いて、なにやらコソコソと話し合いを始めた。


 「あれはマナト……!」

 「……え!?」

 「待つのよオルハン!」


 オルハンが前に出ようとするのを、慌ててフェンとフィオナが止めた。


 やがて、話し合いは済んだようでラクトの仲間達はステージを降りた。


 「……」


 と、その中の1人……金髪の女が、振り向いた。


 ラクトに近寄り、手を握る。


 「!!」


 ――ガタッ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る