543 ラクトVSユスフ

 「あんの女ぁぁ……!!」


 イスを倒しながら立ち上がるや否や、ウテナは前のめりになってステージまで跳躍しようとした。


 「……えっ!?ちょっとちょっと!?」

 「ウテナ!?」


 仰天したライラとフィオナが、ウテナを抱き止めた。


 「ウテナさま!!」


 ミリーも後ろから、ウテナの腰に抱きついた。


 「ど、どうしたのいきなり!?」

 「ウテナ落ち着くのよ!」

 「いや、あの女また一瞬だけこっちに目線向けたもう許せない……!!」

 「えっ!?ステージの女が!?」

 「いやいやそんなことないわよ!」

 「無理はダメであります~!!」

 「ちょっと!アンタたちも手伝いなさいよ!」


 ウテナの右肩をおさえながら、ライラが棒立ちで見ているフェンとオルハンに言った。


 「ちょっと、よく分からねえんだけど……」

 「とりあえず、ウテナが元気そうでなによりだなと……」


 ――バッ!


 ステージ上、男が手をかざした。


 ――ポンッ!


 そして、サーシャに向けて、なにかを飛ばした。


 「サーシャあぶねえ!!」

 「キャッ!」


 ラクトがサーシャを押し倒した。


 「ああ!!いまのぜったいわざと……!!」


 3人に羽交い締めにされた状態のまま、ウテナが指差しながらわめいた。


 ――ヒュゥ……ガンッ!


 男の飛ばしたそれはラクトとサーシャの上を通りすぎ、ステージ端の石柱に当たって落ちた。


 「て、鉄の玉か……?」


 それは丸い鉄球のようで、転がることなく石柱の下に静止した。


 「サーシャ、とりあえずステージ降りろ」

 「う、うん」

 「おい離れ垂れ目野郎!!なにしやがる!!」

 「それはこっちのセリフや!!あとユスフな!!」


 その男……ユスフが、ラクトを指差しながら叫んだ。


 「なにステージの上でイチャついとねん!!腹立つんじゃボケェ!!」

 「は、はぁ!?お前なに言って、そんなんじゃ……」

 「動揺しとるやんけ!!」


 ――タッッ!


 ユスフが跳躍してラクトに飛びかかった。


 ――わぁ~!!


 ステージに残った2人を喧騒が包んだ。


 「あ、アイツ、ド正論言いやがった……!」

 「いや、間違いない。ただ、なんだ、さっきの丸い鉄の動きは……?」

 「たしかに、ちょっと変だったな」


 オルハンとユスフが、ステージを眺めながら話している。


 ユスフがラクトに殴りかかった。


 「!」


 自分に攻撃を向けられたことで、ラクトの表情が変わった。


 「そこだ!!」


 ――シュッ!


 相手の拳をかわし、ダガーで一閃を放つ。


 ――クィィィ!


 「!!」


 ユスフの身体を避けるように、まるでダガーがなにか別のものを切るかのように滑らかに曲がった。


 そしてダガーの攻撃をまるでまったく気にしていないかのように、ユスフはくるっと一回転しながら足を振り上げた。


 「おらぁ!!」


 かかと落としをラクトに繰り出す。


 ――タンッ!


 後ろへ素早く跳躍、ユスフの攻撃をかわし、ラクトはダガーを構え直した。


 「おうおう、やっぱ強いな。オンナはべらすだけあるやん」


 ユスフが嬉しそうに、ラクトを睨み付けながら言った。

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