544 ハウラと仲間たちの会話/警戒レベル

 「はぁ……」


 やれやれといった様子で、ハウラはステージ上手側にやってきた。


 すると、巨大テントの出入り口が少し開き、ハウラの商隊の仲間が数人入ってきた。


 「お疲れさ……はっ!?なんでユスフが!?」

 「おいおい戦っとるやないか!」


 ハウラのもとに歩み寄った仲間は、ステージ上で躍動するユスフを見て唖然とした。


 「ちょいハウラ、どういうことやねん!」

 「ウチは知らんで」


 ハウラは口を尖らせながら、仲間へ言った。


 「ユスフが戦いたそうな顔してたら、アブドはんがそそのかして、こんなことになってしもうたんよ」

 「いや、せやかて……対抗戦て、この国に潜伏しているジンと戦うポテンシャルのあるヤツ選抜するだけちゃうん?」

 「やからウチも知らんねんて、アブドはんがなに考えてるか」

 「にしてもなぁ……」


 話しながら、ハウラ達はステージを見上げた。


 ユスフがラクトへ向けて跳躍していた。


 「もう一回……!」

 ラクトがダガーを構える。迎え撃つつもりのようだ。


 「おらっ!!」

 跳躍した勢いのままユスフが飛び蹴りを放つ。


 「ぬぅ……!」


 ラクトが背中を大きく反らした。


 ――ブンッ!


 ユスフの蹴りがラクトの腹の上スレスレを通り抜ける。


 「そこだ!!」


 ――ヒュッッ!


 ラクトの反らした身体が戻ってくると同時にその勢いのままユスフへ突き攻撃を繰り出す。


 ――クィィ……!


 しかし、ダガーの刃は、やはりちょうどユスフの身体を避けるように軌道を曲げて、その身体の横のなにもない空間を突き刺した。


 「ははは!!無駄やっちゅうねん!!」


 ユスフが笑う。そして次の瞬間には、ユスフの膝蹴りがラクトの顔を捉えようとしていた。


 だが、


 ――キュッッ!


 「……自分、逃げ足速いなぁ」

 「やっぱ、みんなの言ったとおりか……!!」


 ラクトが横に素早くステップして膝蹴りをかわし、少し距離を取ったかたちで構え直した。


 「……ユスフのヤツ、」


 2人の戦いを見た仲間の一人が、苦笑気味にハウラに言った。


 「この国になにしに来てるか、分かっとんのか?」

 「……まあ、相手の元気のいいモテちゃんもそうやけど、若い男って、やっぱ、ああやって運動して、みんなの前で体液撒き散らしたいんやろ」

 「言い方に悪意しかないでハウラ……。でも、ユスフのヤツ、万一負けて、負傷したりせえへんやろか?」

 「心配無用。たとえこの戦いで重傷負ったとしても、病室で仕事させるから大丈夫や」

 「こわ……まあ、相手が初見やったら、いくら強くても、ユスフには勝てへんやろうからなぁ」

 「……ほんで、」


 ハウラが、仲間に聞いた。


 「警戒レベルは?」

 「ここ近辺の市街地を少し回ってきてって感じやけど……そやな、3強ってとこや」

 「3強か……」

 「確実にジンは活発になってきとる。そのせいで、すでに精神崩壊しとるヤツも、チラホラおるな」

 「ほぉん。そやなぁ、う~ん、あんま悠長にしてられ……あっ!」

 「えっ?」


 ハウラが急に、ステージ下手側に手を振って、これまでとまったく違う口調で叫んだ。


 「ムハドはんやぁ!お~い!ムハドは~ん!」

 「おい……」

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