ネオクラシック・キャラバン～転移先の砂漠で、行商人に転職しました～

540 ラクト、圧倒

　ステージ上に視線を戻す。

　アイーダサロンメンバーが繰り出す曲剣の攻撃を、ラクトが大きく跳んで回避していた。

　跳んだ先には、オベリスク風の石柱。

　――タァン！

　ラクトが石柱を蹴る。アイーダサロンメンバーから距離を取るかたちで、角度を変えて跳躍した。

　「いまよ！！着地の瞬間を狙って！！」

　アイーダの指示が飛んだ。

　――ビュッッ！

　アイーダサロンメンバーが再び曲剣を弓に変形、ラクトに向かって矢を放った。

　――カキィン！！

　「……はっ！？」

　ライラは唖然とした。

　このステージ、前回の予選より数段広くなったといっても、弓やボウガンなどの飛び道具を使うには少し狭いようにも思えるくらいの広さではあった。

　だが、それだけ距離が近くなる分、飛び道具の攻撃の照準が完璧な場合、回避するのは困難でもあることに違いなかった。

　しかし、ラクトは回避するどころか、手に持ったダガーで矢を弾き飛ばしてしまった。

　――うおぉ～！！！

　観衆が沸いた。

　「フィオナ……い、今の、ま、まぐれよね？」

　「……いえ、完全に、捉えていたわ」

　――タッ！

　ラクトが動いた。先と同じように、一直線に相手へ突っ込む。

　――シャァァ！！

　曲剣が激しく唸る。ランダムな刃の軌道が銀色の残像を描いた。

　「それ、さっき見たぜ……」

　ラクトがその残像の間を縫うように、前進しなが身体を横に向けて身体を少しひねった。

　――シュッッ！

　曲剣を突破したラクトのダガーの突き。

　「！」

　アイーダサロンメンバーが顔を横に傾け、ギリギリのところでダガーをかわした。

　――サッ！

　ラクトが一旦下がる。

　だが間髪入れることなく、ラクトは再び相手に突っ込んだ。

　同じような攻撃を、ラクトは繰り返している。

　しかし、ラクト自体の動きが速くなっている。

　「……」

　ラクトのその瞳には、なにかが宿っていた。集中してゾーンに入っている、容赦のない無慈悲な、それでいて、無垢で純粋な光。

　「……くっ！」

　アイーダサロンメンバーの顔が険しくなった。少しずつ、ラクトの攻撃に対処できなくなってきた。

　「……」

　アイーダの声が途切れた。そして、悔しそうに、ステージを睨みつけている。

　「うわあああ！！！」

　――シュゥァアアア！！

　アイーダサロンメンバーの叫びとともに、曲剣が激しくのたうち回る。

　「……」

　しかし、ラクトはその曲剣よりも速く、後ろに回り込んでいた。

　「あ……！」

　――シュッッ！

　振り向く間もなく、ラクトの逆手持ちに握られたダガーの刃が、衣装の合間の、そのあらわになっている背中を滑る。

　血が、背中を伝う。

　――わぁ～！！！

　歓声が、ラクトの勝利を告げた。

　「な、なんなのアイツ？」

　「あのラクトってコは、戰人の血筋の者なのよ」

　「いくさびと……？」

　「あら、ライラ、知らない？主にラハム地方やムシュフ地方に存命していると言われる、戰に強い部族よ」

　「ラハム、ムシュフ……いやいや、分かるわけないでしょ！他の地方の部族とか、そんな遠い存在、知らないわよ」

　「あら、私たちにとっては、割と近い存在だったりするのよ？」

　フィオナが視線を横に向けた。

　「えっ？それどういう意味……」

　ライラもフィオナと同じ方向を向いた。

　「……」

　そこには、先ほどから一言も発することなく、少し頬を赤らめて、ただ夢中でステージを見つめているウテナの姿があった。