539 ラクトVSアイーダサロンメンバー/フェンサロン、観戦しながら

 「……」


 ――シュッ!


 ラクトがダガーを逆手持ちに構え、下から上に振り上げた。


 ――ギィンッ!


 ダガーが、伸びた曲剣の軌道を変えた。ダガーと同じ上向きに曲剣が伸びてゆく。


 「気をつけて!」


 白い布を纏っている……キャミソール状態のアイーダが叫んだ。


 「相手は武器の動きを止めてから、容赦なく攻撃してくるわよ!」

 「はっ!遅いぜ!」


 ラクトが跳躍。ダガーを逆手持ちのまま相手へ切りかかった。


 「てや!!」


 ――カキ……!


 「んお!?」


 相手が懐から、弓かボウガンで使用するような、細長く先端の鋭い矢を取り出し、ダガーの斬撃を止めた。


 「チッ、そんなもの隠し持ってやが……」

 「とあっ!!」


 ――シャァァ……!!


 「!?やべ……!」


 波打つ曲剣のその刃がすぐ側まで迫っているのに気づいたラクトは回避、後退した。


 「あ、あぶね……」

 「やああ!!」


 相手が跳躍。曲剣と矢の二刀流で、ラクトに仕掛ける。


 「いいわよ!そのまま距離詰めて!」


 再び、アイーダが叫んだ。


 ――フレッ、フレェエエ!!


 「へぇ……やるじゃねえか、アイーダサロンの踊り子」


 ステージ上手側、主にアイーダサロンを応援している男たちの掛け声で盛り上がる観客席の、その一角で、ステージの上の戦いを眺めながら、オルハンが言った。


 「曲剣の剣術自体は、リーダーのアイーダのほうが手慣れているようだが……矢剣との二刀流だったんだな」

 「ああ、あれはかなり厄介だね」


 オルハンの隣に座っているフェンがうなずいた。


 「……だけど、弓自体は、持っていないようだね」

 「だな。隠してるわけでもなさそうだし、忘れちまったか?」

 「あはは、それは、ないんじゃないか?」

 「しっかし、あのアイーダの指示出しも、かなり的確なようだな」


 ステージの下、アイーダが戦闘の合間合間で指示を出している。


 また、ステージ上で戦うメンバーも、それに従って攻撃の展開を組み立てているようだった。


 「そうみたいだね。……あの若者、たしかに強い。……だけど、」


 相手の男……ラクトを見ながら、フェンは言った。


 「予選で、見せすぎたね。アイーダに、動きが読まれてる」

 「だな」


 フェンは後ろを振り向いた。後ろには、ライラとフィオナ座っている、フィオナとライラ。


 「どっちが勝つと思う?ライラ」

 「えっ?どっちって……う~ん」


 ライラは一瞬考える素振りをみせたが、すぐに首を振った。


 「いやいやそんなの、分かるわけないでしょ」

 「そうかい?それじゃ、フィオ……」

 「おいフェン!あれ……!」

 「んっ!?」


 オルハンに肩を叩かれ、フェンはすぐに前を向いた。


 ――カチッ。


 アイーダサロンメンバーが、曲剣のやいばの先端を柄の下部分に刺し込んだ。


 そして、もう片方の手で振り回していた矢を、曲剣の刃にかけ、グッッと刃を引いた。


 ――ビュッッ!


 ラクトに向けて矢が放たれた。


 曲剣の刃を利用してつくられた即興の弓。


 「なんだそれ!?」


 斜め上に、ラクトは大きく跳び上がった。


 ――ヒュゥ!


 ラクトが一瞬前までいたところを矢が駆け抜ける。


 「あ、あの曲剣、弓の役割も果たすのか……!」

 「すげぇ、はじめて見たぜ……!」


 その後も、2人は興奮気味に話しながら、ステージの上を眺めている。


 「……ほんっと、男って、いくつになってもバトルが好きよねぇ」


 少しあきれ気味に、ライラが言った。


 「ウフフ……そうね」


 フィオナは微笑んだ。


 「……でも、ライラ。この戦いは、もう、決着は着いてるわ」

 「……えっ?」

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