538 ラクトとサーシャ、ムハドの仲介

 「……おっしゃあああああ!!」


 ラクトが歓喜の叫び声をあげた。その手には、当たりくじが持たれている。


 「はぁ、負けた~」


 ミトがステージを降りてきた。


 「すみません、負けました~」


 少し疲れた表情のミトに、ラクトが駆け寄る。


 「負けてくれて、ありがとう……!」

 「……え?」

 「ちょっと待って!」


 キョトンとするミトの横にサーシャが立った。


 「いい加減にして!!」


 そしてラクトに怒鳴った。


 「ぉわっ!?」

 「……」


 ミトがそろそろ~っと、2人のそばを離れて、マナトやケントのところに避難してきた。


 「お疲れ、ミト」

 「なんか、スゴいことになってるね……」


 少し遠巻きに、ラクトとサーシャを見守る。


 「ラクトあなた左肩を何針縫ったと思ってるの!!」


 サーシャが言うように、ラクトの傷は、それが致命傷になりかねないくらいのものではあった。筋肉にまで、ダガーの刃が刺さっていた。


 「……ねぇ、ラクト、教えてよ」

 「……えっ?」


 サーシャの声は落ち着いたものに戻ったが、少し、震えている。


 「あの女に、刺されたんでしょ……?」

 「……ちがう」

 「嘘」

 「……」


 ラクトが少し、苦い顔をした。


 「まあまあ、サーシャ、落ち着けよ」


 ムハドが2人の間に割って入った。


 「ラクト、ちょっと、左肩、見せてみな」

 「あっ、はい」


 ラクトが上着を脱いだ。そして、左肩から左腕にかけて巻かれていた包帯を、スルスル取った。


 「!」


 サーシャが目を丸くした。


 「う……そ……」

 「いや、だから言ってるだろ?直ってるんだってば」


 ラクトの左肩は、縫い跡が残っているものの、傷口は塞がっていた。少しみみず腫れのような痕が残っているくらいで、血も出ていない。


 「まあ、それくらいなら、大丈夫だろ」

 「当然っす。包帯も、取っていいっすよね?」

 「おう」


 ……やっぱり、ラクトは回復力も、普通の人と、断然、違うみたいだ。


 マナトもラクトのほぼ完治してる肩を見ながら、思った。


 「ただし、これだけサーシャが心配してくれてんだ。傷口開くような、無理な戦いは、するなよ?それをサーシャに約束してから、ステージに上がるんだ」


 ムハドの言葉を聞いたラクトはうなずくと、サーシャに向き直って、言った。


 「心配してくれて、ありがとな」

 「……」

 「大丈夫。無傷で戻ってくるから」


 サーシャの頬が、少し、赤くなる。


 「……うん、約束」

 「おう」


 ……あっ、ヤバい。ラクトとサーシャさんがいい雰囲気になればなるほど、背筋が凍るような視線が……。


 そんなマナトの危惧もよそに、ラクトはステージへと続く階段を上っていった。


 「おっ、予選でやたらと強かったアイツじゃねえか」

 「ここに来て、満を持してって感じか」

 「てか、包帯取れてるぞ?怪我はもう大丈夫なのか?」


 周りの観衆が少しざわつく。


 「んっ」


 ステージに立ったラクトが、向かい側、上ってきたアイーダサロンのメンバーを見た。


 一戦目、ジェラードと戦った時の、メンバーと同じ、シアンとマゼンタの衣装を纏っている。


 「あの武器、さっきの……」


 しかし武器は、先に戦ったアイーダと同じ、曲剣を持っていた。


 ラクトも相手も、ほぼ同時に、ステージ中央へ。


 ――キン。


 ダガーと曲剣が交わり、お互い下がって構え直した。


 「!」


 ――シャァァ……!!


 間髪入れずに相手が跳躍、同時に草を凪ぐような曲剣の横振りでラクトに攻め込んだ。

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