105 交易会議②
「ちなみに他の近隣国ですが、ジン=グールの消息が絶たれるまで、交易は見送る方針のようです」
「まあ、そうじゃろうなぁ」
「ジンの出現場所に近い西のサライには、メロ共和国の義勇隊も駐屯して、守りを固めつつ、アクス王国のように砂漠を巡回して……」
長老と伝報担当の女の会話を聞き、周りもあれこれと話し始めた。
「さすがに今の状況で、交易するのは危険だよなぁ」
「でも、大丈夫なのか?常に消費する岩塩とか香辛料が、足りなくなるんじゃ……?」
話し合いの邪魔をしないよう、ラクトとマナトはそろそろ〜っと奥へ行き、空いている席を見つけて座った。
「よう、来たのか」
グリズリー襲来の時にいた、護衛担当の男が近くに座っていて、2人に声をかけてきた。
「おう」
「あっ、どうも」
「今、何の話してるんだ?」
ラクトが護衛担当の男に聞いた。
「今後の交易や、運搬依頼をどうするか……だな」
「それか」
「お前らの遭遇したジン=グールが、まだ、アクス王国の周りにうろついているらしいんだよな」
「……」
――あの化け物、まだいるのか。というか、アクス王国には……。
ジン=グールだけではない。アクス王国にも、ジン=マリードが、未だ潜伏しているはずだ。
しかし、これについては、ラクト、ミト、マナトの間だけの秘密となっていた。
ジン=マリードの契約が、3人の口を封じていた。
ミトは今も、しきりとアクス王国のことを心配している。
かつてのウシュムでの体験から、アクス王国もそうなるのではないかと、そう、思っているようで、アクス王国からの伝書鳥が飛んでくると、ミトはすぐに伝報担当のもとへ足を運び、何が書いてるのかを聞いているらしい。
……逆に、マナトは。
ラクトは、隣で護衛担当と会話するマナトを見た。
マナトは、心配していないどころか、何とかして、ジンと分かり合えないか、などという、この世界の人間はまず考えないようなことを考えていた。
やはり別の世界からやって来たという、これまた特殊な経歴の持ち主ならではの視点から来るものなのだろう。
ジンと分かり合う……とても理想的であり、それでいて、とても危険な考えだ。そう、ラクトは思った。
「交易に関しては、やはりしばらくは、見送りということになりますね」
しばらく話し合った後、伝報担当が、意見をまとめる形で皆に言った。
「うむ、仕方あるまい。……ご婦人、いいか?」
長老の目線の先には、前にミトの倒したグリズリーを料理して村の皆に振る舞った、調理担当の恰幅のよい婦人がいた。
「あぁ、問題ないさ。ケント商隊のお陰で、しばらくは岩塩も香辛料も、持つだろうね。まあ、ちょっとは控えめに使うことにするさ」
「うむ」
「では、最後に……」
伝報担当が皆を見渡した。
何となく大事な報告そうな雰囲気が伝わり、周囲は自然と静かになった。
「ムハド大商隊から、伝書鳥が届きました」
「!」
「『近いうちに、帰還。前回より、収入多し。受け入れ態勢を』とのことです」
「……」
――わぁぁ〜!!
一瞬、静寂の後、一気に酒場内は盛り上がった。
「今回も長かったな〜!」
「えっと、どこまで行ってたっけ!?」
「ウームー地方だよ!」
皆が嬉しそうに言い合う。
――ガタッ!
ラクトも興奮のあまり、立ち上がっていた。
……あの人が、帰ってくる!
「ラ、ラクト?」
マナトが声をかけたが、ラクトは気づいていない様子だった。
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