104 交易会議①

 昼頃。


 村の中央広場に隣接している、大きな扉が特徴的な、大衆酒場。


 その大きな扉は普段、開けっぱなしになっており、村の人々の憩いの場として利用されているのだが、交易会議のため、今は閉ざされていた。


 酒場内、落ち着いたオレンジ色の光の中、長老をはじめ、村の中心者達が集まっていた。


 皆、カウンターやテーブル席にあるイスなどに思い思いに座って、談笑まじりに、ここ最近の他国の情勢や、各キャラバンの交易状況を報告し合っているときだった。


 「……えっと、つ、つまり、完売です!」


 ――シーン。


 村の会計担当である、メガネをかけた壮年の男の言葉に、談笑が止んだ。


 ――ポトッ。


 テーブル席で聞いていた長老が、持っていた筆を落とした。


 「はっ?完売……じゃと?」


 長老が信じられないといった表情で繰り返した。長老だけでなく、他の者達も唖然として会計担当の壮年を見やった。


 「なに!?」

 「それ、ホントなのか!?」


 にわかに部屋がざわつき出した。


 「あのケントが、持ってった服を、完売!?」

 「アイツ、広場ではからっきしだったんじゃ?」

 「そんなことがあるのか……」

 「は、はい!確かに、ケントから、相応の銀貨が納められております……!」


 会計の壮年も、興奮気味に、持った紙に目を落としながら言った。


 「……グフフフ!」


 次の瞬間、長老がもの凄くしてやったりなニヤケ顔をした。


 「わしが睨んだ通りじゃったな!グフフ……」

 「ちょ、長老?」

 「あっ、コホン……とりあえず、次」


 長老は改まって、皆に報告を続けるように促した。


 話はジンの出現に関する話題へと移っていった。


 伝報担当の、若い細身の女が立ち上がった。


 「今日、アクス王国から届いた伝書鳥の報告だと、護衛団と交戦したジンは姿を消して、その後は完全に消息を絶ったようです」

 「ほっ……」


 皆に安堵の表情が浮かんだ。


 「ケント達が遭遇したほうの、ジン=グールは?」

 「う~ん、そちらなんですが」


 伝報担当の女が首をかしげた。


 「各国やサライに被害は出ていません。ただ、サライとアクス王国の間の砂漠で、ジン=グールの出現を思わせるような痕跡が見つかっているようで、護衛団が引き続き、調査も兼ねつつ砂漠を駆け回っているようです」


 あぁ~と、ため息がそこらじゅうで漏れた。


 すると、伝報担当は、長老のほうに顔を向けた。


 「それでですが長老、現在、いくつかの村から運搬依頼が来ているんですよ」

 「うむ、分かっておる」

 「どうしますか?」

 「う~む、どうするかなぁ……」


 ――ガチャッ。


 「あっ、もう、始まってるな……」


 ちょっとだけ扉が開き、マナトとラクトが少し遅れて、酒場に入った。


 数人が振り向いたが、大半は扉が開いたことを気にもとめていなかった。

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