103 マナトの家④/ヤスリブの生態ピラミッド

 「ちょっと待て!それじゃ、ジンの下は、なんなんだ?」

 「いや、それは……あっ、ごめん。日本語で書いちゃってた」


 そう言うと、マナトはヤスリブ文字で、三角形の下の枠から順番に、『生産者』、そこから上は、『消費者』といくつか書いた。


 「一番下、この生産者は、ざっくり言えば植物だね。それで、その上の消費者が、ラクダとか馬とかの草食動物、その上にグリズリーとかの肉食動物……」

 「ほうほう!そういうことか!」

 「そう。それで、僕の前にいた世界なんだけど、このピラミッドの頂点にいるのが、人間だった。ヤスリブでも、この位置は変わらないと思う。でも……」


 そう言い、マナトはピラミッドの上端のちょっとだけある空間を指差した。


 「この人間の上、ここに、ジンがいる」


 改めて、マナトは言った。


 「人間より、ジンって遥かに少ないよね?まずそこは、このピラミッド通りじゃないかな?この枠の面積のようにさ」

 「う〜ん、確かに〜」


 マナトにそう言われると、何かこの図が示唆するものが、とても意味のあるようにラクトは思えてきた。


 「へぇ、おもしれえな。生態ピラミッドだっけ?」

 「そうだね」

 「でも、人間の上にジンがいるって、なんかジンに人間が支配されているって感じがして、嫌だなぁ」

 「でも、ジン、強かったじゃない」

 「うっ……」


 マナトにきっぱりと言われ、ラクトはちょっと口ごもった。


 「正直、僕は今でも、ジン=マリードにも、ジン=グールにも、どうすれば勝てたのか分からないよ」

 「……うん、そうだな」


 ……認めざるを得ない。


 実際、ラクトも、その答えは分からなかった。


 やはり、ジンは、想像を絶する強さだった。


 「……でも」


 少し間があって、マナトは再び口を開いた。


 「もちろん、この構図が全てという訳じゃないよ。僕のいた世界でもそうだったけど、時と場合によっては、この立場が逆転する場合もあるんだ。下克上みたいな感じで」

 「あっ、そう。じゃあ、大丈夫」

 「ジン=マリードも、『シャイターンには勝てるかも』って、言ってたし」

 「あっ、そう言えば、んなこと言ってたっけ」

 「シャイターンが何なのかよく分からないけど、ジンにもいくつか種類があるんだと思う。そして……」


 マナトが生態ピラミッドの、ジンの下の人間の枠を指差した。


 「人間にも、いくつか種類があるってことなんじゃないかな。この人間の中に、ジンに匹敵する民族か、もしくは耐性を持つ民族とか」

 「うん」

 「その中に、もしかしたら、そこにラクトも、ミトも入るのかなって」

 「……」

 「……ラクト?」


 ……スナネコって、どこに入るんだろ?


 ラクトは生態ピラミッドを見ながら、もう別のことを考え始めていた。


 「ちなみにさ、スナネコって、こん中だとどこに入んの?」

 「えっ、スナネコ?ええと、ここかなぁ」

 「じゃあさ、毒のあるキノコってあるじゃん?あれって……」


 段々、他の動植物達が、どの枠に入るのか、興味を持ってきたのだ。

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