362 巨大テントへ/サロン対抗戦①
ミトとマナトは、ケントの両隣を歩いていた。
「いま、ムハド隊長から、目線、感じたか?」
ケントの問いに、ミトは首を縦に振り、マナトは首を横に振った。
「そうか。んじゃ、ミト、ダガーをいつでも抜けるようにしておけよ」
言いながら、ケントも自らの背中に背負った大剣を掴んで、カチャカチャさせて、具合を確かめていた。
「はい、ケントさん」
マナトは手をあげた。
「はい、マナトくん」
「サロン大会って、なんですか?」
「正式には、キャラバンサロン大会っていうんだ。メロの国内のキャラバンが一同に会した、キャラバンのお祭りだ」
「へえ!そんなのやってるんですね!」
「ああ。ちょうど、やってたみたいだな。でも、まさか参加することになるとは。俺も初めてだ」
「もしかしたら、フィオナ商隊のみんなにも、会えるんじゃないですかね?」
「おう、確かに!おそらく、いると思うぜ」
「そっかぁ」
……みんな、元気にしてるかなぁ~。
マナトは、フィオナ商隊の、それぞれの顔を思い浮かべていた。
「というか、そんなところで、戦闘があるのですか?」
ミトがケントに聞いた。
「いや、分からん。ただ、ムハド隊長のあの感じは……おそらくな」
すると、ケントは後ろを振り向いた。少し遠く後ろのほうで、ラクトとサーシャが歩いている。
「おい!ラクト、お前はダガーというより、心の準備しとけよ!いよいよ、ウテナに会えるぞ!」
ひやかし半分に、ケントが叫ぶ。
「なっ……!」
「……なに、動揺してるの?」
ラクトを見たサーシャが言った。
「い、いや、なんでもねえよ!?ぜんぜん、動揺なんて、してねえんだけどなぁ!」
「……」
やがて、巨木と巨木の間から、土色をした巨大なテントが姿を現した。
※ ※ ※
巨大テント内部。
中央にあるステージは、前日と違い、周りに施されていたご機嫌な装飾はすべて取り払われ、ただの白無地の、広い壇上となっていた。
――わぁ!わぁ!
しかし、テント内全体、前日以上に、盛り上がりを見せていた。
「出てきたぞ!今回の注目株の一組……!」
周りを取り囲む観衆が、ステージにアツい視線を注ぐ。
ステージに上がってきた、肩から足元まである白装束に、緑の輝く布ベルト。頭には、ターバンを深く被っている、商人騎士風の男。
手には、ダガーよりも刃が長く大きく、刃先に向かうに従って曲線を描いている刃物……サーベルを持っている。
「ナジームだ!」
ナジームの目の前には、別のサロンの男。両手には、双剣。
「……」
「……」
両者、睨み合いながら、弧を描きながら歩く。
――タッ!
ナジームが動いた。相手との距離を詰める。
――シュッ!
サーベルで一閃。相手は双剣の片方で受け流した。
「くっ!サーベルが……!」
相手は反撃できない。サーベルの刃の長さのせいで、ダガーとほぼ同じ射程の双剣では、
ナジームは一定の距離を保ちつつ、相手に一閃、また一閃を加えてゆく。
「くっ、このヤロ……!」
サーベルの攻撃を嫌がった相手が、無理矢理に距離を詰めようと跳躍した。
「!」
ナジームはサッと、一瞬後ろに引いた。
――スァッ!!
目一杯、ナジームはサーベルで突きを放ち、相手の双剣をはねのけて、脇腹に切り込んだ。
「ぐぅ……!」
脇腹から、血が流れる。相手は脇腹を押さえた。
――わぁ~!!
周りの観衆の歓声が、ナジームの勝利を告げていた。
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