6 キャラバンの村/グリズリー襲来

 突如出現した大熊、グリズリーに、村は騒然となっていた。


 キャラバンの村のすぐ近くにある密林にグリズリーは生息しているのだが、食料を求めて、村へやって来る事が稀にあった。


 「とりあえず避難!村の中央部へ!」

 「早く!早く!」


 村の住民の声が、所々で慌ただしく飛んでいる。


 避難している村の住民をよそに、グリズリーは村を徘徊し出した。


 グリズリーはとある木造建築の民家の前で二足歩行になると、前脚で扉を押した。


 ――バキッ!


 と、すぐに扉は壊れてしまい、中に入って、食料を見つけては口の中へとほうり込んでいる様子だった。


 村の護衛担当の若者が駆けつけ、グリズリーに気づかれないように、壁に隠れながら手に持っていたボウガンを構えた。


 家から出てきたらすぐ、射殺するつもりのようだ。


 「待てまて!」


 別の、伝達担当の若者が、壁に隠れている護衛担当のところへやってきた。


 「ダメだ、打つな!」

 「何でだよ!さっさと殺しちまわねえと、アイツ、村の食料全部食っちまうぞ」

 「長老が殺るなって言ってるんだ」

 「はぁ?」

 「ここでミトの最終試験、やるらしいんだよ」

 「最終試験?キャラバンの?」

 「ああ、そうだ」

 「マジかよ。ここでやるのか?最終試験って、密林の奥深く行って、そこで出会った獰猛種の獣を狩るんじゃねえのか?」

 「普段はそうだけど、今回はここでやるんだってよ」

 「そうなのか……いや、それならそれで、ミトはどこにいるんだよ」

 「それが、どっか行ってていないんだよ」

 「おいおい、早く呼ばねえと……」


 若者同士で言い合っていると、長老が現れた。


 「ボンジュール♪若いの」


 長老は護衛担当と伝達担当の若者2人に、ご機嫌な様子で声をかけた。


 背はあまり高くなく、その上猫背なため若者達より頭が低い。口周りから顎にかけて生えている長い白い髭と、左手に持った杖、紺色の修道士服に身を包んだ姿は、学識に富んだ年長者らしい風格を漂わせていた。


 「ボン……、なんすか?」


 護衛担当の若者が、拍子抜けした様子で言った。グリズリーが村に出現しているにも関わらず、長老はそれを全く気にしていないかのような態度だった。


 「この前、ムハドに教えてもらったんじゃ。ご機嫌いかがかしらん?って意味らしいぞ」

 「いや、むしろ村長自身が機嫌よくないすか?今、グリズリーが村に来て、民家を荒らしてるってのに」

 「だって、最終試験で密林の奥深くまで行くの、めんどくさいんじゃもん」


 「えぇ……」


 長老はキョロキョロと周りを見回した。


 「それで、熊ちゃんは、どんな感じ?」

 「いやもう、食いまくってると思いますよ。今あそこの家に入っていきました」


 護衛担当の若者が、グリズリーが先に扉を壊して入って行った民家を指差した。


 「あらら……家の者は避難しとるよな?」

 「はい。それは大丈夫です」

 「お~い!長老~!」


 遠くから、声がした。


 「連れて来たぞ~!」


 声のしたほうを見ると、村の若者と、ミトがこちらへ向かってきていた。

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