86 西のサライ/ラクトの励まし、ミトの一言

 マナトはフィオナ商隊の宿泊スペースの扉を開けた。


 「呼んだ〜?」


 中庭のほうでキョロキョロとしているラクトに声をかけた。


 「おう、そこにいたかって、あれ?俺たちの部屋って、そこだっけ?」

 「いやいや、フィオナ商隊のとこだよ」

 「だよな。って、なんでそこから?」

 「風呂場に、水を注いでたんだよ」

 「あぁ、なるほどね。とりま、ラクダ達の荷下ろし、終わらしといたぜ〜」

 「あっ、ごめん、ありがとう」


 マナトに続いて、ルナも出てきた。


 「すみません、マナトさんをお借りしてました」

 「ぜんぜん、いいっすよ。……ルナさん、元気ないな?」

 「あっ、いや……」


 ルナは、やはり口をつぐんでしまっていた。落ち込んでいるウテナのことを憂慮して、ルナ自身も表情が曇ってしまっている感じだ。


 「ごめんなさい。ウテナがあんなに落ち込んでるの、初めて見たもので……」

 「えっ」


 ラクトから、笑顔が消えた。


 「ウテナ、落ち込んでるのか……?」

 「はい」

 「うん。そうみたいだね。でも、こういうときって、そっとしておいたほうが……」

 「お~い、ウテナ〜?」


 ラクトはまったくマナトの言葉が耳に入っていない様子で、フィオナ商隊の部屋に入り、ウテナの名を呼んだ。


 「ウテナ〜。……あっ」


 ラクトが、ウテナを見つけた。先までと同じで、個室内で三角座りしていて、膝に顔が隠れている。


 「……」


 無言で、ラクトはウテナの座る木の台に腰掛けた。


 「ま〜、その、なんだ……」


 ラクトが、ウテナに何か声をかけようと、頑張っている。


 「この服、選んでくれて、ありがとな!気に入ってるぜ!」


 ラクトは、アクス王国で服の購入の際の礼を言った。


 「……」

 「ええと……」


 ラクトが、頑張っている。……が、


 「あ〜、もう!何かよく分からないけど、元気出してくれ!ウテナ!」

 「……」

 「なんか、お前が、こう、落ち込んでたりすると、こっちが調子狂っちゃうんだよ!」

 「……」

 「次、勝てばいいんだよ!次はぜったい、大丈夫だから!」

 「……」

 「あっ、みんないる」


 ミトもルナ達の宿泊スペースに入ってきた。


 「どうしたの?みんなして」

 「あぁ、いや、ええと~」


 マナトがこのシチュエーションをどう説明する迷っているうちに、ルナが言った。


 「むしろ、ミトさんこそ、何かありました?」

 「あっ、うん。さっき思い出したんだけどさ、ジンに遭遇する前にみんなで話していた、ケントさんとフィオナさんの件、どうするのかなって」


 ……あぁ、それか。


 ジン=グールに遭遇する前、みんなでケントとフィオナがデキているのかどうかという話で盛り上がり、西のサライ着いたら夜、ふたりを見張ってみる?とかも冗談で言っていたのだ。


 「あっ」


 ウテナが顔を上げた。


 「……ウ、ウテナ?」


 ウテナは立ち上がった。


 「みんな、中庭集合で!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る