18 マナト④/村の銭湯

 ミトとマナトは脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと入った。


 「あっ、石けんがある。でも、さすがに、シャワーは、ないか……」

 「しゃわー?」

 「あっ、いえ、何でも。身体を洗うのは?」

 「ここだよ」

 「あ〜なるほど」


 浴場の壁に沿って、流しそうめんの流し台のような、湯が循環しているU字型のレールがあり、そこで湯をすくいながら身体を洗っている男が数人いた。


 男達に習って、マナトも身体を洗い、ざっと30人は入れそうな広い湯船にちゃぷんとつかった。


 「あぁ〜」


 思わず声が出た。こっちの世界に来て、初めてのお風呂。


 「フフっ。その反応も、ヤスリブの人達と一緒だよ」


 ミトが、とても気持ち良さそうなマナトを見て微笑むと、彼も湯船につかった。


 「やっぱそうですよね。……んっ」


 ふと、マナトはミトの裸体に目がいった。


 ぜんぜん、筋肉があるように見えない。腕も足もマナトと一緒くらい細いし、引き締まっている雰囲気はあるが、別に腹筋が割れてる訳ではない。


 「ちょっと、恥ずかしいな……」


 マナトがじろじろ見てきたために、ミトは苦笑した。


 「いや、正直、信じられないんです。その身体で、あの巨大なグリズリーを、あっという間に倒してしまうなんて」

 「いやいや、正直、ヒヤヒヤしながら闘ってたよ」

 「ミトさん、なぜそんなに強いんですか?」

 「そんな、僕なんか、まだまだだよ」

 「いやいや。僕よりはるかに、強いです」

 「う〜ん……」


 ミトは腕を組んだ。少し考えると、やがて、口を開いた。


 「……それは、マナト君のいた世界では、強くなる必要がなかったから、仕方ないじゃないかな。たぶん、必要があるから、ついた力なんだよ、きっと」

 「はぁ……そんなものでしょうか」


 程なくして、2人は銭湯を出た。


 「いや〜、とても気持ちよかったです。ありがとう、ミトさん」

 「ぜんぜん。それじゃ、ちょっと、行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

 「あっ、ぜんぜん」


 村の中央部の大広場へとやって来た。


 「ちょっと、待ってて」


 ミトが寄ったのは、外から見てもいろんなものが置いてあるのが分かる店、いわゆる雑貨屋だった。


 すぐにミトは戻って来た。


 「はい、これ」

 「えっ?」


 刃渡りはおそらく25センチほど。ミトやラクトも持っていた、諸刃の短剣、ダガーを渡された。


 ……いや、ミトさんならともかく、僕がこれを持っても、大して強くはなれないかと。


 でも、ミトからの真心も感じた。


 「ありがとうございます」

 「うん。さすがに、この世界では、これくらい持ってたほうが、安全かもね」

 「いや、その必要はないかもしれんぞ、ミト」

 「えっ?」


 声がしたほうを見ると、長老が立っていた。


 「ボンジュール♩ミト、マナトをちょっと、借りてくぞ」

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