17 マナト③/ジンについて

 もう一つ、ジンという存在。


 長老いわく『人間ならざる者』で、『塵』から出来ているという事で『ジン』と呼ばれ、幼い子どもをさらったり、また、殺人など、様々な形で人間に危害を加えている存在なのだという。


 厄介なのが、普段は人間を装っているということ。


 人に化けて人間に近づき、人間が気を許したところで犯行に及ぶ、というのが、ジンの常套手段らしい。


 ミトも、それでさらわれたとのことだった。


 このジンに関しては、謎に包まれている部分が多く、そのため、この世界の人間は皆、ジンを警戒しているのだという。


 マナトがこの世界に来てすぐ、ラクトがマナトに対して取った行動も納得だった。


 「あら、ミトくん!」

 「やあ」

 「この前の、かっこよかったよ」

 「ありがとう」


 すれ違いざま、女の人がミトに声をかけた。


 道行く人が、多くなってきた。


 ミトと同じような服を着ているわけではなく、赤、緑、青の鮮やかな色合いの衣装を身につけている華やかな女性もいれば、この前のグリズリーから剥ぎ取ったものだろうか、獣の毛皮を身につけているワイルドな男性もいて、皆、様々だった。


 「みんな、服が独特なんですね」

 「キャラバンの村は、様々な地域の文化が融合しているから、身につけるもの一つとっても、多様性に富んでいるんだ」

 「なるほど」

 「でも、マナト君も、十分、独特だったよ」

 「あはは……」


 マナトとミトは、村の中心、大広場へと続く、白と灰色の石で固められた大通りまで歩いて来た。


 この大通り、前にグリズリーとミトが闘った場所だ。


 グリズリーに襲われた住居の扉には、木の板で応急処置がなされている。


 「それで、どこに行くの?」

 ミトがマナトに言った。


 「いや、特には決めていないんです。村にどんなものがあるのか、気になって。散歩がてら、いろいろ見てみたいって思って」

 「なるほどね」


 マナトとミトが話していると、建物と建物の間の細道から、上半身裸で、肩からタオルをかけた男達が3人、大通りに出てきた。


 「あの人達……?」

 「あぁ、銭湯帰りだろうね」

 「銭湯……」


 ……そういえば、お風呂に入ってないなぁ。


 すると、ミトが「行く?」みたいに、指差した。


 「大丈夫だよ。自由に入れるんだ」


 大通りから横道に外れ、3人の男達が出て来た細道を通り抜けた。すると、他の建物よりも、ひと際大きな石造りの建物が姿を現し、なんと書かれているのかは分からないが、おそらく『ゆ』的な文字であろう、のれんがかかっていた。


 村の人共有の大浴場だった。


 中に入ると、これまた何て書いてあるかは分からないが、おそらく男湯と女湯と書いてあるのだろう、入口が2つあった。


 「あっ、中は、やっぱ、似てるんだ」

 「前の世界と?」

 「はい。男と女で分かれてるんですよね。やっぱりそこは一緒だなと」

 「あぁ、そこね」


 ミトに促され、男湯のほうへと入って行った。

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