16 マナト②/新しい服

 そして、キャラバンの村では、このヤスリブ・クルール地方を中心に、行商を行っていた。


 特産品はいくつかあるが、触り心地のよいリネンのような生地と、光沢のあるシルクのような生地の2つ。キャラバンとなった者達はこれらをクルールの各地へとおもむき、売るのを生業としていた。


 これらは軽くて持ち運ぶ際にラクダの負担が少なく、大量に運搬できることから、村一番の売れ筋商品となったのだという。


 また、他の村や城下町から依頼を受けて、キャラバン達を派遣し、交易品を運ぶという、いわゆる運送業的なこともやっているとのことだった。


 ……とにもかくにも、長老とは、延々、意識が遠くなるまで、話していたのだ。


 「マ、マナト君……」


 ミトが、少し笑いながらマナトの肩を叩いた。


 「んっ、どうかし……ぬぁっ!?」


 マナトはすっぽんぽんだった。


 「き、君のいた国は、なかなか解放的な民族なのかな?」

 「いや!ちがっ!えっ!?あれ!?なんで、僕、裸!?服は!?」

 「それが、汚れてたから洗っておいたんだけれど……さっき長老が来て、ちょっと、借りてくって、持ってっちゃってさ。ただ、まさか下着まで持っていくとは思わなくて」

 「えぇ〜!!」


 マナトは周りをキョロキョロと見回した。幸い、誰も見ていないようだ。


 マナトは大切なところを隠してミトの家に引き返した。


 「これ、着なよ」


 ミトが服を差し出し、急いでマナトは服を着た。


 黒いシルク生地の下着を身につけ、藍色と白色の肩かけを羽織り、腰巻きを回して止めた。


 「おっ!結構、似合うね」


 ミトに言われ、マナトは少し恥ずかしくも、嬉しかった。


 そして、この服を着たことで、いよいよ、異世界にいるという実感が沸いてきた気がした。


 「ミトさん。ちょっと、村を散策して来てもいいですか?」

 「あっ、それなら、僕も行くよ」


 2人は、ミトの家を出た。


 畑と畑の間を通りながら、村の中心部へと歩みを進めた。


 所々に建っている木造建築の家を通り過ぎる度、「あっ、この家は大体、いくらぐらい……」みたいなことを、マナトは考えてしまっていた。


 長老によると、キャラバン達が遠征の際に仕入れた建築技術を、村の建築士に伝授したことによって、この村には、木造も石造りも、多種多様な建築物が建っていったのだという。


 「ホント、長老の家で、長老とマナトを見つけた時は、ジンに操られているんじゃないかって思うくらい、異様な状況だったよ」

 ミトが笑いながら言った。


 「あはは、いや〜、いろいろ話したり、話を聞いたりしているうちに、まさか数日が経っているとは思わなくて」

 「元気になって、良かった」

 「ありがとうございます。……それに、ジンという存在も、長老から聞きました」

 「……そっか」

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