364 サロン対抗戦③/フィオナの戦い

 ――おぉ~!!


 テント内、主に男たちの興奮した、太めの歓声が沸き起こる。


 ステージ上、アイーダのサロンメンバーが躍動していた。


 踊り子が着用しているような、シアンとマゼンタが折り混ざった華やかな衣装をまとい、まるで舞いを舞うように、相手の攻撃を避けながら、隙をみて、手に持ったレイピアで刺突を放つ。


 ステージの下では、サロンリーダー、アイーダが腕を組んで、勝利を確信した表情でその光景を眺めていた。


 ――プツッ!


 レイピアのやいばが、相手の振り抜いた腕に刺さった。


 ――ツ~。


 血が、流れた。


 「やった~!!」


 アイーダのサロンメンバーが、皆、抱き合って叫び合う。男たちの太い歓声も、再び沸いた。


 ナジームのサロンと同じく、危なげなく、アイーダのサロンも初戦を突破した。


 「なかなか、いい舞いだったわ」


 ステージから降りてきた、勝利したサロンメンバーを労いつつ、アイーダが皆を連れて席に戻る。


 フェンが立ち上がった。


 「よし、いくぞ」


 ステージに飛び散った血を、清掃員が拭き取る。同時に、テンションの高い司会がステージへ。


 「続きましてぇ~!サロン・ド・フェ~ン!」


 ――おぉ~!?!?


 司会の声に応え、どこかしこからも歓声があがったが、疑問符のある歓声となっていた。


 「……んっ?」

 足を組んで座っていたナジームが、フェン達に目を向ける。


 「ウテナが、いない……?」

 フェン達を見たアイーダが言った。


 観衆のいたるところで、ささやく声が聞こえる。


 「おい、ウテナはどうしたんだ!?」

 「失踪したって聞いたわ……」

 「ウテナはあれだろ、実は……!」

 「いや、その噂は……!」


 皆、ウテナがいないことに対する疑問や、いま流れている噂など、あれやこれやと言い合っている。


 「おい、フィオナ、どっちが先に出る?」


 オルハンは、周りの声がまったく聞こえていないかのように、同じくステージ向かいに出てきた相手のサロンの面々を見据えながら、言った。


 「私から行くわ」


 フィオナが、レイピアを引き抜いた。


 「厳しい相手だったら、すぐに降参していいぜ」

 「あら、なめられたものね。水の能力を得るまで、私より弱かったじゃない、オルハン」

 「うぐ……!」


 オルハンが口をつぐんだ。


 「ウフフ、冗談よ。頼りにしてるわ」


 フィオナは言うと、ステージに上がった。


 ……ウテナ。いま、どこにいて、なにをしているの?


 「どうやら、ウテナ不在のようだな」


 フィオナの向かい、ステージに立った別のサロンのキャラバンの男が、口を開いた。右手にはダガーを握りしめている。


 「いろんな噂が、いま、流れている」

 「……」


 フィオナは口を挟まず、相手が話すのに任せていた。


 「俺は、ウテナが実はこうだとか、ああだとか、そういったことに、興味はない……が、この状況、戦う俺たちにとっては、都合がいい」

 「……」

 「悪いが勝たせてもらう……覚悟!!」


 相手が跳躍。


 ダガーでフィオナを攻撃。


 一閃。フィオナの、フワリと浮いた銀色の髪の毛が数本切れて、空中に漂う。


 ――ブスッ。


 「あ……!?」


 その相手の、踏み込んだ右足の太ももに、レイピアが刺さっていた。血が滲む。


 「し、死角からの、刺突……!」

 「こちらこそ、悪いわね。このルール下で、初見で私に勝つの、たぶん、ウテナより難しいわよ」


 サッと、フィオナはレイピアを引き抜いた。


 ……いつでも、戻ってきて、いいからね、ウテナ。


 歓声に包まれる中、フィオナはステージを降りた。

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