609 部屋の絵画/マナトの持っている手紙

 これまで泊まってきたような宿とは、明らかに違っている。


 部屋の壁には絵画が立て掛けられてあり、また天井にぶら下がっているマナのシャンデリアが、広い大理石の部屋をきらびやかに照らしていた。


 「めちゃめちゃ豪華だよね~」

 「なんか、場違いな感じするんだよなぁ」

 「あはは、たしかに」

 「つ~か、ここにも……へぇ~」


 ラクトは、ミトとマナトが泊まっている部屋の絵画を眺めた。


 「ラクトの部屋にもあるんだ?絵画」


 ミトが問うと、ラクトは絵画を見たままうなずいた。


 「ああ。俺のとこは、夜の砂漠をラクダとキャラバンが歩くヤツだったぜ」


 そこには、全体的に茶色の、岩石砂漠の景色。右下の岩の影に、サボテンが2本、生えている。


 絵の上半分には、翼を広げ、口を大きく開いたグリフィン。飛び立とうしているようにも見える。


 そのグリフィンの下で、グリフィンの羽ばたきで巻き起こった風に煽られる、右腰に長剣を携える男の姿。


 「ん~?」

 「んっ?どうしたの?」


 絵画を見ながら、ラクトは首をかしげた。


 「このグリフィン、男に、手なずけられてる……かな」

 「えっ?そうなの?」


 ラクトに言われ、ミトも絵画を眺めた。


 「どうしてそう思ったの?僕もマナトも、戦っているようにしか見えなかったんだけど」

 「いや、このグリフィンの目からは、敵意を感じないんだよな」

 「そ、そうなの?……う~ん?」


 ミトは絵画を凝視した。


 「……どう見ても、戦っているようにしか見えないなぁ」

 「まあ、俺はそう感じたってだけだ」


 言うと、ラクトは改めてマナトを見た。


 これまでの、ミトとのやり取りの最中にも、ぐっすりすやすや熟睡モードである。


 「マジで起きねえな」

 「なんか、遅くまで、手紙を読んでたみたいなんだよね」

 「へぇ」

 「ほら、あの紙……」

 「あっ」


 寝台で、気持ち良さそうにうつぶせ状態で眠るマナトの左手には、一枚の紙が持たれていた。


 「……」


 音もなく、ラクトは歩いて、眠るマナトの横に立った。


 「……」


 そして、眠るマナトの左手にある手紙に、ラクトはす~っと、手を伸ばした。


 「えっ、ちょっと、ラクト……?」

 「いや、だって、気になるだろ?」

 「いや、というか、その手紙の差し出し人ってさ……」

 「あっ、知ってるのか?ミト」

 「いや、それは見てないから、分からないんだけど……」


 ミトが言った。


 「たぶん、それ、ルナさんの手紙だと思うんだよね」

 「!」

 「い、いや、だからさ、あんまり他人が見るの、ちょっと、あまりよくないんじゃないかなっていう……あっ」


 ――スッ……。


 ミトが言っている間に、もう、ラクトはマナトの左手から紙を取っていた。


 「うわ……やっちゃった、ラクト……」

 「ちょっとだけ……!ちょっとだけ見たら、左手に戻せばいいじゃねえか……!それに、ミト、お前だって、ちょっと気になるだろぉ……?」

 「……」


 ミトもススス……と、ラクトのもとへ。


 「よ、よし……!」

 「……」


 ――ヒラ……。


 ラクトとミトは、紙を開けて覗きこんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る