62 尾行③

 「ちょちょちょ!ちょっとタンマ!」


 マナトが前に出て、2人を止めた。


 「何でだよ!」

 「あ、あそこの店は、ちょっと入らないほうがいいというか、入りたくないというか……そ、それに尾行がバレたら、それこそおしまいだからさ!」


 ミトとラクトは納得がいっていない。


 「ええと、ええとね……あのお店にも迷惑がかかるし、それで万一、交易中止みたいな事態になると、キャラバンの村としてダメだと思うんだよね」

 「……」

 「……仕方ない。マナトがそう言うなら。ちょっと待機しよう。もし異変があがったら、すぐに乗り込もう」


 ……よかった。ミトとラクトには刺激が強すぎる。


 3人はその場に座り込んだ。


 マナトは周りを見渡した。


 他にも路上に座って酒を飲んだり、何やらカードを使ってギャンブル的な賭け事をしている者達も多く見られた。


 マナト達もまた、歓楽街の景色に溶け込んでいた。


 「おうおう、兄ちゃん達」


 男が話しかけてきた。白い粉の入った袋を持っている。


 「浮かねえ顔してんじゃん。どう?これ、買わねえか?この粉すっげえ気持ちい……」


 ……危険ドラッグ!!


 マナトは立ち上がった。


 「すみません、いりません!」


 マナトが男にあからさまな敵意を向けたのを見て、ミトとラクトも立ち上がって、男をにらみつけた。


 「ちょっ、おいおい、なんだよ……」


 男は去って行った。


 「なんだ?あの男」

 「ドラッグ売りだ。この世界にもいるんだ……」


 どの世界にも、闇に手を染めている人間はいるものだと、マナトはしみじみ思った。


 ふとマナトはさっき出てきた細い横道に目をやった。


 「あはは!」

 「本当、大変だねぇ」

 「はい、王宮での……」


 男達が3人、横道から出てきた。


 頭にターバンを巻いた白装束の男と、どこかの宗教家がしていそうなかぶり物をしている男が2人、楽しそうに会話しながら、マナト達を横切った。


 ……あれ?あの男の顔、どこかで?


 「はっ!あぶぶぶ……!」


 マナトは慌てて顔を伏せた。


 ……お、王宮商人だ!


 他人の目を全く気にする様子もなく、交易の際に着ていた服のまま、この歓楽街にやって来ていた。


 ……両サイドの深い被りものをした男2人は、もしかして、王宮の人たちか。


 楽しそうに会話し、亭主とは別の建物の中に入っていった。


 ……まあでも、こういったものは、栄えている国にはつきものなのかな。


 周りをキョロキョロしながら、マナトは思った。


 一方、ミトとラクトは、周りの喧騒なんか、何とも思っていない様子で、下を向いては、時折亭主の入った建物を見て、また下を向くといった感じだった。


 ……僕がちょっと、よそ見し過ぎているのかな。

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