61 尾行②

 「……大丈夫か。はぁ~」


 少なくてもこのゴミの中には、眺めている限り、マナトが思っていたものは入っていないようだ。マナトは安堵のため息をした。


 『おい!見失うぞ!マナト……!』


 ラクトが早く来いといわんばかりに、手を振った。


 亭主は広場に差し掛かっていた。


 昼にもの凄い賑わいを見せていた広場は、まだ人はいるが、さすがにまばらだった。


 さっきマナトがやったように、マナのランプがあたらない暗闇を移動しながら、3人は亭主の尾行を開始した。


 「お~う、料亭の親父ぃ」


 少し酔っぱらっているような雰囲気の、髭ののびた中年の男が、亭主に話しかけてきた。


 「やあ!最近、あまりウチに来てないじゃないか〜」

 「嫁に止められてんだよぉ。金ないのに食べてるんじゃないってよぉ」

 「昼働いてないのに、夜飲んでいたら、そりゃ嫁も怒るよ~。こんなとこで飲んでないで、昼出てきて働いたらどうだ〜い?」

 「おいおい、広場まで逃げてきたのに、今度は料亭の親父に説教されるとか、マジ勘弁だ~!」

 「わはは〜!」

 「仕事なんて、しんどいだけだろ?」

 「まあ、大変だけど、私は、そうは思わないよ〜」

 「へっ、相変わらずだな。……まっ、明日は働くよ!」


 通りすがりの酔っぱらい男は去って行った。


 亭主は一人になると、再び歩き出し、広場のとある細い横道に入った。


 「俺たちも行くぞ」


 3人は、亭主が入ったのを確認すると、横道の手前まで来て、そっと横道をのぞきこんだ。


 亭主の姿が見えない。すぐに角を曲がったようだ。


 「くそっ」

 「僕たちも入ろう」


 すぐに横道に入り、曲がり角まで来ると、再び亭主が歩いているのが見えた。慌てて3人は壁に隠れる。


 この道は建物と建物の間が狭く入り組んでいて、尾行が難しい。


 亭主はどんどん奥へ進んで行く。


 「あれ?また見失った。どっち行った?」

 「あっちだよ……!」


 3人は何とかバレないように隠れながら、そして、見失わないように距離を保ちながら、何とか亭主を尾行し続けた。


 すると、亭主は細い横道を抜けた。


 「道を抜けたぞ」

 「……よし」


 3人は横道の壁から、抜けた先を見た。


 一気に視界が明るくなる。


 マナのランプの、ランプのほうに着色がされていて、あたかもネオンのように、緑や紫、桃色の光が広い空間を彩っている。


 夜遅くても店が開いていて、飲食店のほか、夜の店的な雰囲気をしている店が見られた。


 そして、多くの人でにぎわっている。いわゆる歓楽街だ。


 「こんな場所が、王国内にあったんだ……」


 ……王国内での、歌舞伎町みたいなところだ。


 「人、多いね」

 「これじゃ、見失っちまうぜ」

 「いや、逆に好都合だよ」


 マナトは言った。


 「これなら逆に、堂々と歩ける。むしろ、そうしていたほうが、いい」

  

 亭主は、歓楽街の中心くらいまで来ると、とある建物の中に入っていってしまった。


 「しまった、入られたぞ」


 その建物の前の看板には、ヤスリブ文字で何か記されていた。


 「ええと……」

 マナトは、かろうじて、途中の文字まで読めた。


 「『好き』、『肉体』、『女』……」


 ……あっ、これは。


 「乗り込むぜ!ミト、マナト!」

 「うん!」


 ラクトとミトが駆け出した。

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