56 料亭の亭主③

 まさか自分に飛び火するとはといわんばかりに、ルナは狼狽していた。


 するとミトも、前にケントとフィオナに言った時のように、素直な口調で、

 「うん。なんていうか、見てて、2人とも、お似合いかなって……」

 「ミトさん!!」


 ルナが顔を真っ赤にして叫んだ。


 「あっはは!ルナ、焦ってるぅ、か~わいい~!」

 ウテナが無邪気に笑った。


 「おうおう。男女同士、ほれたはれたか。いやあ~、若いねぇ」

 ケントが酒を飲みながら、楽しそうにひやかした。


 「いやいや、ケントさん」

 マナトは苦笑した。


 「若いねぇって……言っときますけど、僕とケントさん、同い年ですからね」

 「えっ!?ケントとマナトくんって、同い年なの!?」


 フィオナが驚いた様子で、ケントとマナトを見比べてた。


 「あっ、そうだよ。俺もマナトも23だ。なんでそんな驚くんだ?」


 ケントが、この行商で少し伸びた無精髭をさすりながら、言った。


 「ケント……あなた、なかなかのおっさんじゃない」

 「ほっとけ!」

 「いや、マナトくんのほうが、童顔なのかしら……?」

 「はいは~い!」


 料亭の亭主がやって来て、ドンッと銀のフタをした大皿を置いた。


 「これ、サービスだよ~!」


 亭主が、フタを開けた。


 美味しそうな匂いが湯気と共に漂ってくる。大皿の上には、様々な香辛料をふりかけた、大きな蒸し鶏が乗っていた。


 「おう!気前がいいなぁ、亭主!」

 「あら、いいの?」


 ケントとフィオナが亭主を見た。


 「向こうの客から聞いたよ~!君たち、キャラバンなんだってね~!いつも交易品を持ってきてくれるお礼だよ~!カメ肉はなくなっちゃったんだけどね~!」

 「いえ~い!!食べるぅ~!」

 「ウフフ。ウテナ、太るわよ」

 「それじゃあ、いただきま~す!」


 ミトが蒸し鶏に手をのばし、みんな、上機嫌で亭主の好意を受け入れていた。


 しかしマナトは、亭主を見たとたん、やはり少し、背筋が寒くなるのを覚えた。


 そして、もう一人、亭主がやって来たとき、少し表情を変えた者がいた。


 ラクトだった。


 ラクトと、同じく蒸し鶏に手をのばさないマナトと、お互い目が合った。


 「あれ?食べないんですか?」

 ルナがマナトを覗きこんだ。


 「あっ、いや……」

 「食べようぜ、マナト」

 「あっ、うん」


 ラクトとマナトも、少し遅れて蒸し鶏を食べ始めた。


 その後、皆、久しぶりに満腹になるまで食べ、解散し、宿屋に戻った。


     ※     ※     ※


 ――コン、コン。


 宿屋に戻るとすぐ、マナトが泊まっている個室の扉が鳴った。


 ――ガチャっ。


 「よう」

 扉を開けると、ラクトがいた。


 「マナト、ちょっと、俺の部屋に集合だ」

 「ちょうどよかった。僕も、ちょっとみんなに伝えたいことがあるんだ」

 「んっ、そうか」


 ラクトの個室に、マナトは入った。

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