嵐のサロン対抗戦、決勝トーナメント

486 前夜①/帰路にて

 ――ガラガラガラ……。


 2台の馬車が、ひた走る。


 依頼品の納品が済んだマナト達一行は、泊まっている宿に戻っていた。


 「いやぁ、まさか、ルナさんが、ムスタファ公爵の娘だったなんてね~」

 「ホント、ビックリだよね」


 前方を走る馬車の中、隣り合って座りながら、ミトとマナトは話していた。


 向かいに座るのは、サーシャと召し使い、ニナ。


 「これで、キャラバンとしての必要な仕事は、完了したよね?」

 「ラクダの納品、サーシャさんの絵画とシュミットさんの彫刻も納品も済んだもんね」

 「うん」

 「はぁ~、ホント、無事に済んでよかったよ~」


 心の声のままに、マナトは言った。


 ジンの騒動もあるせいか、今回の依頼、やたらと長く感じられる。


 ……ジンの件、どんな感じなんだろうか?


 馬車に揺られながら、マナトは思った。ムスタファ公爵に、できる限りの情報提供はしたつもりだ。


 しかし、大胆にも、ジンは、マナト自らに化けて、おそらく、ウテナを亡き者にしようとした。そして、ラクトも。


 「……」


 ……また、なにか気づいたことがあったら、ムスタファ公爵に伝えよう。

 マナトは思った。


 「……あっ、ちょっと、ストップで」


 布をまくり上げて外を見ていたサーシャが、運転士に言った。


 馬車が止まった。


 「サーシャさん?」

 「どうしました?」


 ミトとマナトが言うと、サーシャは振り向いた。


 「買い物、しようかなって思って」

 「わ~い!ボクも一緒に買い物する~!」


 すぐにニナが両手をあげた。召し使いも、降りる準備をしている。


 「買い物!いいですね~!」

 「僕らも行こうか!」


 マナトもミトも同行することにした。


 馬車を降りる。


 空を見上げる。日はほとんど落ちているが、まだ少し、赤く染まった光が残っていた。


 夜に入る直前といったところだ。


 馬車はちょうど、ワイワイと賑やかに、人の行き交う大通りに差し掛かるところだった。

 

 「お~い、マナト、どした~?」


 後ろを走っていた馬車から、ケントが顔を出した。


 「僕ら、ちょっと、大通りで買い物してから、帰ろうと思いま~す」

 「んっ、そうか~」

 「大通りから宿屋まで近いんで、僕らの馬車はここでバラしにすることにします~」

 「んっ、分かった~。俺らは先に帰ってるぜ~」

 「なので、すみません、イヴン公爵からの報酬、そちらに乗せてもらっても、いいですか~?」

 「あいよ~」

 「ありがとうございます~」


 ケント達を乗せた馬車に、報酬の木箱を乗せる。


 「あんま、遅くなるなよ~」


 馬車が走り出すと同時に、ケントが皆に言った。


 「あはは……そんな、子供に言うみたいな。さすがに大丈夫ですよ」

 「明日、サロン大会でやってる対抗戦の、決勝トーナメントだからな~。んじゃ~」


 馬車は走り去っていった。


 「……」


 ……わ、忘れていた。

 マナトは思った。


 その後、マナトは、自分たちの乗っていた馬車の運転士に合掌し、ペコリと頭を下げた。


 「今日は一日、ありがとうございました」

 「ははは!君は礼儀正しいなぁ。またよろしく!」


 運転士は機嫌よく、馬車を走らせ、やがて、見えなくなった。


 「……やっぱり、どこまでも、日本人ね、マナト」

 サーシャが言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る