485 アブド、舌戦⑥/会議のあとで

 「ふむ……力を合わせる、か」


 アブドの発言を聞いた、灰色のクーフィーヤの公爵は、外交担当の公爵を見た。


 「どうだね?君。まだ十分、今の段階では、君の意見も考慮するべきだと、わしは思うがね」

 「……」

 「アブド公爵」


 外交担当の公爵が無言のままだったせいか、灰色のクーフィーヤの公爵が、アブドにも言った。


 「被害を最小限に抑えるという観点は、外せないぞ、アブド公爵」

 「もちろんでしょう」

 「そこは、どう、考慮されているのだ?」

 「いえ、私もまだ、そこまで考えられては、いません。それこそ、ご教授願いたいところである」

 「ふむ……」

 「アブド公爵」


 国防担当の公爵が手をあげた。


 「もう少し、詳しくお聞かせ願いたい。どういった策なのかを」

 「……はぁ、そうですね」


 外交担当の公爵も、ようやく口を開いた。


 「アブド公爵が考えている策を、聞いてみるまでは、なんとも言えません。とりあえず、話は、聞きましょう……」

 「分かりました」


 言うと、アブドは座った。


     ※     ※     ※


 ――ギィィィ……!


 馬車が止まる。


 宮殿に到着したムスタファは、馬車から降りて、急いで、階段を上っていった。


 「……あっ」


 玄関の扉が開いた。


 中央会議に参加していたであろう、公爵たちが、宮殿から出てきた。


 「んっ、ムスタファ公爵」


 中央会議は散会しているようで、ムスタファに気づいた公爵の一人が、声をかける。


 「中央会議は、終わったぞ」

 「すみません。間に合うと思ったのですが……」


 言いつつ、すれ違う公爵らに、ムスタファは合掌した。


 「間に合わなかったか……んっ?」


 階段を上りきると、玄関の、開いた扉の先……灰色のクーフィーヤの公爵が、歩いてきていた。


 「……」


 扉の前には、アブドが立っている。


 そのアブドが、合掌し、頭を下げている。灰色のクーフィーヤの公爵に向けていた。


 灰色のクーフィーヤの公爵が、アブドを通りすぎる瞬間、立ち止まった。


 「まだ、公爵たちの不戦派が、暗躍してくるとは思うが……わしが説得しておいてやろう」

 「かたじけない……!」

 「イヴン公爵長へも、わしから話しといてやる」

 「感謝いたします……!」


 アブドが言い終わらないうちに、灰色のクーフィーヤの公爵は去っていってしまった。


 「……」


 一瞬、チラッと、灰色のクーフィーヤの公爵が、ムスタファへ視線を向けた。


 ムスタファも、アブドと同様、合掌し、頭を下げた。


 「……」


 無言で、灰色のクーフィーヤの公爵は通りすぎ、階段を降りて、馬車に乗り込んだ。


 「おう、ムスタファ公爵」


 ムスタファに、アブドが手を振っている。


 「すまない、間に合わなかった」

 「問題ない。ちょうどいいタイミングだ。打ち合わせするぞ。いつもの2階の、小部屋がよいな」

 「打ち合わせ?それよりアブド、会議はけっきょくどう……」


 ムスタファの言葉が終わらないうちに、アブドはもう、背中を向けて、歩き出していた。


 「ジンを倒すための打ち合わせだ。先の会議で、いくつか懸案を出された。ムスタファも考えてくれたまえ。はっは!」


 (岩石の村、依頼品の納品 終わり)

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