385 シュミットとケントの会話

 「あっ、あれっすか」


 ケントがシュミットに言った。


 「俺たちが岩石の村に運搬依頼で訪れていた時も、つくってましたよね」

 「はい、そうです。十の生命の扉の彫刻ですね」

 「いやぁ、あの時、ビックリしたよな」


 言うと、ケントはミトとラクトを見た。2人ともうなずいている。


 シュミットは、マナトら3人がこしらえた素人以下のひどい彫刻に、せっかく製作途中だった十の生命の扉の彫刻を、なぜか深い感銘を受けたあまり、自らの手で豪快に破壊していた。


 「あの後、もう、昼夜分かたず作業しましてね」

 「あははは……、なんか、申し訳ない」

 ケントは苦笑した。


 「いや、かえって、創作意欲は沸いていたんです。お陰で、勢いに任せて一気に製作することができました」

 「それならそれで……だけど、どうしてムハドさんに見てもらいたいんすか?」

 「……」


 シュミットは一瞬、口をつぐんだ。


 「すみません」

 「えっ?」


 シュミットは先に謝った上で、話し始めた。


 「実は、一つ目のサライに到着した際、回廊を散歩されているムハドさんとマナトさんの会話が、たまたま、聞こえてきまして」

 「はぁ」

 「あのお方……ムハド隊長は、人の十の生命の扉のうち、自明となっている六つの扉までを見ることができると、そこで、話されているのを、偶然、耳にしまして」

 「あぁ、そういうことっすね」


 ケントは、納得といった顔をした。


 「十の生命の扉のうちの六つ……」

 「へぇ~」

 ミトとラクトが、興味深そうに聞いている。


 「へぇ~!そうだったんだ~!」

 「あのお方に、そんな能力が……」

 ニナと召し使いは、驚いた様子で、顔を見合わせていた。


 「あの時……」

 サーシャは、なにか心当たりがありそうに、つぶやいた。


 「……あっ、てゆうか、そっか」


 ケントが察した様子で言った。


 「そんな彫刻を依頼するということは、その依頼者は……と、いうことですか?」

 「はい。その依頼者、または、依頼者の関係者の中に、十の生命の扉に強い関心を持っていることは間違いないと思います」

 「なるほど」

 「そして、私自身、彫刻を作成する際、文献などを見て学んだ上で、製作してはいるのですが、ムハド隊長は実際に見れると聞きましたもので、そんな方が、私の作製した彫刻を、どう思われるか……そう考えた時、やはり、どうしても一度、見てもらいたいと、思うようになりまして」

 「そうですか」

 「ただ、ムハドさんも、マナトさんと一緒に、対抗戦の途中で、青い瞳の公爵の方と一緒に行ってしまったので、いつ戻られるか……」


 シュミットが言い、ため息をつきかけた時だった。


 「ああ、いいぜ~」


 シュミットの後ろから、少し低めの、聞き心地のよい声がした。


 「ふぁっ!?」

 「十の生命の彫刻だろ?俺も興味ある」


 ムハドが機嫌良さそうに、笑顔でシュミットに言った。

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