335 セラとジェラード、出国

 夜。


 賑やかで、マナのランプが明るい、華やかな大通り。


 しかし、そんな大通りも、一歩横道に入ってしまえば、屋内からもれ出る光のみが、かろうじて外の光を照らすような、暗い路地が続いていた。


 そんな路地に、女が一人、歩いていた。


 その白く美しい容姿と、後ろで束ねた、流れるようなストレートの金色の髪、足元まであるベージュのマント姿は、そこに光でもあって、自らが輝いているのかと思われるほどによく見えた。


 「君」


 路地にいた男が、女に語りかけてきた。


 「なにか?」


 女の美しくも、凛々しい声が響いた。


 「ひひひ」


 男は、いやらしい笑みを浮かべ、言った。


 「最近、この国では、ジンの出現が噂されている。一人でいるのは危険だ。どうだい?俺と一緒に……」

 「へぇ、ジンが、この国に、ねぇ~」

 「うわっ!?」


 急に後ろから、別の男の声がして、男は驚いて振り向いた。


 「それは、ぜひ、一緒に、いてもらいたいねぇ……」


 暗闇から現れた、口の上とあごに髭を蓄え、その濃い褐色のダンディーな顔に、女と同じベージュのマント姿の男が、スッと、その男の肩に、腕を回してきた。


 ――ミシミシ……。


 その腕の隆々とした筋肉は、すぐにでも男の首を絞め折ってしまえるほどに、太かった。


 「ひぇ……!」


 男は腕をかいくぐって、逃げ出した。


 「やれやれ、つれないねぇ……」

 「ジェラード、いきましょう」


 その金髪の髪と、マントをなびかせながら、女……セラは再び路地を歩き出し、すぐ後ろにジェラードも続いた。


 「結局、メロの裏情報は、イマイチ掴めずって、感じだったわね」

 「そうだねぇ」

 「あの、アブドという公爵が、なにかあることだけは、間違いないのだろうけれど」

 「論功行賞の際に、キャラバンのコたちに聞いて、調べた甲斐があったねぇ」

 「ええ。あの公爵はおそらく……」


 セラの代わりに、ジェラードが続けて言った。


 「死の商人、キーフォキャラバンと繋がっているんだろうねぇ」

 「……ええ、そうね」

 「とはいえ、それも、いまは、それどころじゃなくなってるみたいだけどねぇ」

 「そうね」


 セラが、ため息まじりに、言った。


 「まさかこの国に、本当にジンが潜んでいるなんてね……」

 「そこに関しては、もう少し、調べたかったねぇ」

 「……仕方ないわ。もう、時間切れよ。最低限のことはやったわ。ムハドを迎えにいきましょう」


 その後はセラもジェラードも無言で歩き続けた。


 やがて、メロ共和国の国門へ。


 「セラさま!」

 「ジェラード副隊長!」


 数人のキャラバンが、セラとジェラードのもとへ。人数分の馬も率いてきていた。


 門を警備する護衛へ、話しかける。


 ――ギィィィ……。


 門が開かれる。


 セラとジェラード、そして、数人のキャラバンは、馬に乗って、夜の砂漠を駆けていった。

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