472 予感/ムスタファの公宮

 ……というか、なんで?どうして?


 ルナは、なぜマナト達がここに来ているのか、皆目、見当もつかなかった。


 「……あっ」


 今度は、首のネックレスが後ろでうまく留められずに落としてしまった。


 「……」


 ……おそらく、向こうも、自分と会うのが目的ではないはず。


 ネックレスを拾いながら、冷静にならない頭の中を、懸命に整理させながら、考える。


 父親であるムスタファとの、なにかしらの案件で来ているはずだった。


 ……偶然かしら?


 化粧台、鏡に写った自分の顔を見ながら、ルナは、思った。


 ……いいえ。


 もしかしたら……と、どこかで、思っていたかもしれない。


 それは、ジンが、その人の姿となって、自分の目の前に現れたときから……。


 そう、予感。


 ジンに、なにか、危害を加えられていないか……それだけを心配しながらも、ジンが現れたことによって、どこか、近いうちに、その時が来ることを、感じていたような気がしていた。


 「もう……!震え止まってってば……!」


 自らの手に、ルナは思わず叱っていた。


     ※     ※     ※


 台車が用意された。


 シュミットがつくり上げた彫刻が、布にかけられたまま、馬車の中から、台車の上へと移される。


 「それでは、中へ」


 アーチ状の、大きな、木目の美しい玄関の扉が開いた。


 「お入りください」


 青年の男に誘導され、台車とともに、一行は公宮の中へ入った。


 イヴン公爵長の公宮と同じように、屋内の天井はやはり高く、丸屋根の内側がステンドグラスとなって、緑、赤、紫色となった光が、広い玄関に降り注いでいる。


 玄関入って正面奥には、らせん階段。


 「こちらです」


 青年の男は、らせん階段には上がらずに、一階左手の渡り廊下を歩いてゆく。一行も続いた。


 均等に台座が置かれ、その上には、透明に鮮やかな植物の模様があてがわれた皿が飾られている。


 壁には、色彩豊かな絵画が立て掛けてある。


 「……」


 絵画の前で、サーシャは止まり、興味深そうに眺めている。


 「まるで美術館だね」

 「だね~」


 ミトとマナトは周りを見ながら観賞に浸りつつ、歩いていた。


 すると、青年の男が、とある一室の前で止まった。


 「公爵、連れて参りました」

 「うむ、ご苦労」


 一室から、一人の男が出てきた。


 「どうも、ご無沙汰してます、ムスタファ公爵」


 マナトはその男……ムスタファ公爵に挨拶した。


 「あっ、なんだ、君か!」


 ムスタファはマナトを見ると、親しみを込めた笑顔を向けた。


 「ターバンを、被るようになったのだね」

 「はい」

 「君も、岩石の村の芸術家たちと同行していたのだね」

 「そうですね」


 同じように、顔見知りであるミトやケントにも、ムスタファはマナトと同じように挨拶した。


 「……して、岩石の村の芸術士は?」

 「私でございます、公爵」


 シュミットが一歩前に出て、ムスタファに向かって、合掌した。

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