496 フェンのサロン、巨大テントへと向かう、道中にて

 朝。


 「……よし、じゃあ、行こうか」


 フェンのサロンメンバーは大通りの市場あたりで集合した後、巨木エリアの巨大テントへと移動を始めた。


 フェンに続いて、ライラ、オルハンの隊長陣に、サロンのメンバー達が後ろに続く。


 「……」


 周りから、いくつかの視線。


 これまでのような、憧れを含んだ眼差し……では、ない。距離を置いた、眼差しだった。


 それは、物理的な距離に加えて、心の距離も開いているような。


 「……なんか、見られてるわね」


 ライラが、前を向いたまま、少し不安げに、小さめにつぶやいた。


 「まあ、そうなるだろうね。仕方ないよ。気にしない気にしない」

 「そうそう、心配すんじゃねえよ、ライラ」


 フェンが冷静に言うと、オルハンも被せて言った。


 「まあ、そうなんだろうけど。……それで、ねえ、ウテナは、大丈夫なの?」

 「心配すんじゃねえよ、ライラ」

 「アンタそればっかりじゃないの!」

 「いやだって、心配してもしょうがないだろ」

 「……」

 「どうした?ライラ、お前らしくないぞ」


 オルハンが言うと、ライラは少し、口をつぐんだ。


 「ウテナなら、大丈夫だよ」


 フェンが振り向いた。


 「数日前、諜報員本部で発見された当初は、傷が多くてかなり出血していて、衰弱してしまっていたみたいなんだけど、致命傷になるほどの深いものは、あまりなかったようだから」

 「うん」

 「でも、この視線……やっぱり、別動にして、正解だったね」


 この一行に、ウテナは、いない。


 フィオナが、別動隊として、ウテナと一緒に巨大テント向かう手筈てはずになっていた。


 「……」

 「おい、ライラ。お前らしくないぞ」


 ライラが無言なのが気になったのか、オルハンは聞かずにはいられない様子だった。


 「……オルハン、アンタ、ちょっとくらい、不安、ないの?」

 「不安って、なんの不安だよ?」

 「……はぁ」


 その時だった。


 「あっ!オルハン先輩だ!」


 オルハンに駆け寄る集団がいた。若者の集団だった。


 「この前は、ガスト助けていただいて、あざした!!」

 「ガスト?えっ?」


 立ち止まったオルハンが、首をかしげる。


 「えっ?」

 「だって、昨日、大通りの賭け飲み屋の2階でガストが……!」

 「賭け飲みって、お前らなぁ……」

 「えぇ……じゃあ、違うのか~」

 「……」


 少し歩を進めながら、ライラは、オルハンと若者たちのやり取りを、目を丸くして見ていた。


 「そうか、ライラは知らないのか」

 「えっ?」


 フェンが、ライラに言った。


 「オルハンは、破落戸ごろつき上がりなんだよ」

 「あぁ、だから、あんな奴らと……」

 「はは、そうだね。でも、人望があるんだよ、オルハンには」

 「へぇ……」


 周りの視線を、若者たちは、まったく気にしていない。そして、オルハンに、親しげに話しかけている。


 「とにかく、俺じゃねえ。んじゃ、もう行くからな」

 「うっす!」


 オルハンは若者たちと離れ、少し先にいるフェン達に追いついた。


 「すまん、待たせた」

 「大丈夫だ、行こう」

 「……なんだよ、ライラ」


 オルハンが、無言で見つめてくるライラに言った。


 「……フっ、まあ、いいわ」

 「あっ?」

 「さっさと行きましょ!」


 ライラが先頭に立って、歩き出した。


 「少し、足取り軽くなったんじゃないか、ライラ」


 フェンがライラの後ろ姿を見て、言った。


 「さあな」


 さほど興味なそうに、オルハンが応えた。

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