497 フェンとナジーム

 やがて、巨木エリアへと、フェンのサロンは、足を踏み入れゆく。


 「……んっ?」


 フェン達の行く道の先に見えている、巨木。そこに、もたれかかって座っている、一人の男。


 白装束に、緑色の光沢ある布ベルトを腰に巻き、ターバンを深々と被っている。


 「……」


 そして、ターバン越しの、半分出ている目は、正面、歩いてくるフェン達を見ていた。


 「おい、ナジーム!偵察か?」

 「オルハンか。まあ、そんなもんだ。……よいしょ」


 オルハンに答えると、ナジームは立ち上がった。


 「フェン、ちょっと、顔をかせ」

 「分かった。オルハン、ライラ、先に……」

 「はっ!?なに言ってんの!?ダメでしょ!」


 ライラがビックリして口を挟んだ。


 「戦った後でいいでしょ!いや、戦う前とか、なにされるか……!」

 「お前疑い過ぎだぞライラ。さすがにねえよ」

 「ちょ、ちょっとオルハン!」

 「はいはい俺らはこっちだ。フェン!いけいけ!」


 オルハンが、無理矢理ライラの背中を押して、メンバーも連れて巨大テントへと向かっていった。


 「少し、歩こうか、ナジーム」

 「ああ」


 フェンとナジームは、巨木テントに、少しだけ遠回りするかたちで歩き出した。


 「たしかな情報スジから聞いた情報だ」


 歩きながら、ナジームが言う。


 「サロンの階級制度と、この対抗戦だが、どうやら、当初の目的と、だいぶ変わってきたようだ」

 「当初の目的と?」

 「ああ。この対抗戦は、いま、メロに潜伏しているジンと戦うサロンを選出するためのものらしい」

 「……なるほど」


 フェンが、足を止めた。


 「……あまり驚かないな、フェン」

 「いや、ある意味、自然なことではないかと思って」

 「なるほど。それもそうか」

 「優勝したチームが?」

 「それは分からん。どちらにしろ、これはつまり、この国のトップは、マジでジンとやり合うことを、覚悟したらしいって、ことだよ」

 「!」


 フェンが、目を大きく見開いた。


 「そうか……」


 そして、安堵の声を漏らした。


 「あぁ、そうか、そういうことか……よかった、これで、ウテナは……」

 「……歩くか」


 再び、歩き出す。


 「そういえば、ウテナが、いないようだな?」

 「……」

 「いいのか?ウテナがいなければ、俺たちの勝ちだぞ?」

 「……へぇ、珍しいじゃないか。ナジームが、相手サロンの心配とは。そうだな……心配は無用だ、とだけ、言っておこうかな」

 「……フッ、そういうことか」


 ナジームが、一呼吸置いて、言った。 


 「いろいろと、あったようだな、お前のサロン」

 「……まあね」

 「でも、もう、心配無用、か」

 「ああ」


 巨木よりも巨大に造られた土色の三角錐が、見えてきた。


 巨大テントが見えてくると同時に、フェンのサロンメンバー達も見えた。


 「んじゃ」

 「感謝するよ、ナジーム。ありがとう」


 皆まで聞かず、ナジームは後ろ姿に手を振りながら、テントに入っていった。


 「あっ!フェン!」


 ライラが手を振る。


 「待たせた」

 「大丈夫だった!?」

 「いや、大丈夫、大丈夫……」

 「ホント!?なにもされてない!?」

 「いや、なにも……」

 「おい、入るぞ」


 オルハンが歩き出し、皆も続いた。


 巨大テントの、中へ。

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