622 ガストと清掃員の男③/ガスト、歩きながら

 空が、オレンジ色に輝く。


 陽の光が少しずつ落ち着いて、傾きかけてきていた。


 ……あのチビ清掃員、大丈夫かな?


 ガストはちょっと気になったが、後ろを振り返るつもりはなかった。


 人混みにしばらく紛れた後、細い裏道に入った。


 細い路地は傾いてきた陽の光が入って来ず、一足早く夜の訪れを告げているように、暗くなってきてい。


 「……」


 ガストはフードの奥から、チラチラと周りを見渡した。


 ……いねえな。


 大体こういった場所には、この国で行き場をなくした者たち――たとえば、過去に犯罪を犯した前科者や、なにやら怪しい闇の物資の売買をしている者たち――が、この時間帯からむくむくと姿を現してくることが多かった。


 公爵の中には、そういった者たちと、繋がっているという噂もあった。世も末である。国のトップが、そんなことでは。


 ちなみにガストは一度も、そういった者たちと関わったことはない。疑われてはいるようだが、それに構うことはなかった。


 何度か角を曲がった。


 しかしやはり、あぶれ者を見かけることはなかった。


 「!」


 足音が聞こえ、ガストはサッと角に隠れた。


 護衛たちが、巡回していた。ガストの隠れている方向とは、別のところへ。


 ……なるほど、取り締まりが激しくなっているからか。

 ガストは気づいた。


 これだけ頻繁に護衛たちがうろついていたら、それこそ取り引きまがいなことは、やりづらいのだろう。


 ……アイツらも、役に立つときは立つんだな。


 歩く護衛らの背中を見ながら、ガストは思った。


 「……」


 ……いや、場所が変わっただけかな。


 護衛らの背中が角を曲がって消えてゆくまでの間に、ガストは思い直した。


 護衛が巡回するだけでなくなるような、そんな、簡単なことではないだろう。ましては、公爵が関わっているとなれば、なおさらだろう。


 別にガストにとっては、どうでもいいことではあった。


 だが、国の変化というものが、そういった側面からでも、垣間見れるところに、妙な興味はあった。


 ある者は、この国が崩壊に向かっていると言う。


 ある者は、この国が変わるチャンスだと言う。


 ……それは別に大きな違いはない。その者の立場の違いから、そう見えるだけだろう。


 ある人にとって、都合のいいことは、別のある人にとっては、都合が悪いのだ。誰を敵とするのか、誰を味方とするのか次第だ。


 ……敵って、なんなんだ。


 適当に迂回した後、再び大通りへと出た。


 裏道と打って変わって、たくさんの人。市場に並ぶ店舗、買い物をする者たちでにぎわいを見せる。


 「……」


 だが、ここでずっと過ごしてきたガストにとっては、やはり、いつもの光景では、なかった。


 ……みんな、なにか噂話をしているように見えるな。


 どこもかしこも、複数人で集まって、小さな声で囁き合っている。


 もちろん、そういった光景は過去にも見られた。だが今、その比率が明らかに多い。


 「!」


 ガストはフードを深く被り直した。


 目の前に、一集団。


 人数は二十人ほどで、男女はちょうど半々くらい、年配が比較的多いが、若い者たちも混じっている。


 その中に、見知った顔があった。


 ガストの母親だった。


 (サロン対抗戦、開けて 終わり)

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