387 ムハドの見解

 「!」


 皆の視線が、再び、マナトへと集まる。


 「ムスタファ公爵が、マナトを連れていったのも、そこを突き止めたかったのが、主な目的だったようだ」

 「……心当たり、あるの?」


 寝台の端に座っているサーシャが言う。マナトは首を横に振った。


 「いや、もう、まったく、覚えてなくて……」

 「そう……」

 「いやまあ、それが普通なんすけどね~」


 リートがイスの上に座って、ガッタンゴットンさせながら言った。


 「ジンって基本、人間に化けているんで。だから、近寄られても、それがジンだって、気づくことは、ま~無理なんすよ」

 「……なるほど」


 納得した様子で、サーシャはうなずいた。


 「それでも、マナトくん、ず~っと、質問漬けだったっすけどね」

 「仕方ねえよ。マナトがジンに過去に遭遇しているのは、間違いないんだからな。とはいえ、完全に取り調べだったよな」

 「あはは……」


 リートとムハドに言われ、マナトは苦笑した。


 「また、今回潜伏しているジンの種類は、ジン=シャイターンだそうだ」


 ムハドが言う。


 「俺のこれまでの経験上、ジン=シャイターンは標的となる人間が、そこそこ絞られていることが多いんだが、ムスタファ公爵に、今回のジンの動きを聞いた限りでは、マナトの姿は、つなぎだった可能性が、高いだろう」

 「つなぎ?」

 「実際、マナトの姿では主だった交戦は行っていないようだ。ただ、一回、あったみたいだが。つまり、この国に入るためだったり、また、潜伏中に当たり障りない存在として、マナトの姿は利用されたんだと思う。とはいえ、油断は禁物だ」


 ここまで言うと、ムハドは一度、皆を見渡した。


 「今日はこんなとこかな」


 そして、シュミットに目線を向けた。


 「いきますか、シュミットさん」

 「はい。よろしくお願いします」

 「例の彫刻は、どちらに?」

 「はい。この宿を道沿いに歩いた先にある、貸し倉庫です。この宿から、近いですよ」

 「あい分かった。おいリート、もちっと、付き合え」

 「うぃ~っす」

 「あっ!僕も行っていいですか?」


 マナトが手をあげた。


 「新しい、十の生命の扉の彫刻がどうなったか、見させてもらいたいなって、僕も思いまして。よろしいですか?シュミットさん」

 「ええ、もちろん、大丈夫ですよ」

 「あっ、俺も行きます」

 「僕も」


 ラクトとミトが立ち上がった。


 「……私も行くわ」

 「サーシャさまが行くなら、私も……!」

 「ボクも~!」


 岩石の村のメンバー達も立ち上がる。


 ムハドが笑った。


 「あはは!まあ、いいじゃねえか。みんなで行くか!」


 皆、マナトの個室を出て、そのまま、玄関へ。


 外に出る。


 マナのランプが等間隔で点在する夜道を、ぞろぞろ列をつくりながら、貸し倉庫へと向かった。

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