138 緊急召集②
「長老!ジンがクルール地方をうろついてるから、交易は控えているのでは!?」
キャラバンの一人が言うと、他のキャラバン達も、うん、うんと同意の頷きをした。
すると、長老は後ろの3人に、顎でクイッと、前に出るように促した。
「うぃ~っす」
リートが一歩、前に出た。
「現在、このキャラバンの村には、ラクダが千数百頭いるっす。みんなご存じの通り、ムハド隊がたくさん連れ帰ってきたせいで、村で養える数の倍以上のラクダが、いま、この村にいることになるっす」
「あぁ、やっぱ、そういうコトだよな~」
マナトの横で聞いていたラクトが、もう、話の結論が見えている様子で、つぶやいた。
「とりあえず、砂漠寄りの草原に一時的に滞在させ、牧畜業のみんなに面倒を見てもらってるっすけど、さすがに管理行き届かなくて、そこの草原一帯、絶賛砂漠化進行中なんすよ」
……そうだったんだ。知らなかった。
リートの話を聞きながら、マナトは思った。
「確かにジンの驚異は無視できないんすけど、それ以上に、このままでは、この村はラクダ1000頭によって、砂漠になっちゃうっす!」
リートがしゃべり終わると、続いてセラとジェラードも前に出てきた。
「交易品を持ち帰るためだったとはいえ、このような事態になってしまったことを申し訳なく思います」
「だが、連れ帰ったラクダ達は、どれも遠征向きなフタコブラクダ優良種ばかりだ。屠るのは、もったいない」
セラの、美しく誠実な声と、ジェラードの、聴き心地のよいダンディーな声が、広場に響いた。
「と、いうわけで……」
長老は皆を見渡すと、号令を発するように、大声で言った。
「キャラバンの皆よ!ラクダ達を連れて、近隣の村や国に赴き、交易して参るがよい!!」
※ ※ ※
解散後、マナトとラクトは、ミトと合流し、大衆酒場の、開かれた大きな扉の前にいた。
3人の他にも、多くのキャラバン達がそこにいて、皆、その巨大扉を眺めていた。
伝書鳥ルフが先行して、キャラバンの村の、近隣の村や国に長老の書簡を届けていた。
そして、ラクダを必要としている村や国からの返書をもとに、そのリストを大衆酒場の巨大扉に張り出していた。
他のキャラバン達の声が聞こえてくる。
「どこの村に行くかな~?」
「あっ、この村に用事あるから、俺、ここ行ってくるわ。鍛冶屋に武器依頼してたんだった」
「それなら、私もそこに行こうかしら?近いけど、まだ行ったことなかったわ」
「んじゃ、このリストを取って……」
行き場所を決めたキャラバン達は、張り出している紙をはがし、大衆酒場の中へ入っていった。
「みんな、どんどん受注してるね」
「当然。交易に行きたくないキャラバンなんて、いないさ」
ミトが、貼り出されている紙を確認しながら、マナトに言った。
「いや、ジンの話も、さっき出てたし」
「危険はみんな、覚悟の上だぜ、マナト」
ラクトが、貼り出されている紙をはがして、マナトのほうを向くと、その紙を見せつけるように突き出した。
「次の交易に、冒険に飢えてるんだ。この村のキャラバンは、みんなそうさ!」
「……うん!そうだね!」
(ムハドと3人の副隊長/マナト、村での日々編 終わり)
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