マナト、行脚編

鉱山の村

139 砂漠を歩くメリット

 どこまでも砂漠が広がる大地、ヤスリブ。


 昼は灼熱、夜は極寒という、生命の営みを許さないようなこの大地は、実をいうと、交易にとても適していると考えられるのではないだろうか。


 なぜか。


 その厳しい環境による、敵の少なさだ。


 ジンや盗賊団などの脅威を除くと、密林のように獰猛種などの生物に出会うことが、砂漠では極端に少ない。


 もちろん、砂漠に適応し、進化を成し遂げた獰猛種達もいないではないが、そういった場所は事前に調べられ、それらの生息域に足を踏み込まないように、交易ルートはつくられていた。


 そんなふうに、被害のリスクを減らした上で、この大地では砂漠を横断するキャラバンによる交易が広く行われているのだろう。


 砂漠を横断するということは、実は非常に効率的なのだ。


 そう、マナトが思ってしまうくらい、なんの危険もなく、ケント商隊は目的地である、鉱山の村に着いてしまった。


 「ケント商隊です。ラクダのほう、連れて参りました」

 「やあ、ご苦労さま」


 隊長のケントと、村の交易担当が握手した。


 ミトとラクト、マナトが手分けし、十数頭いるラクダ達の中から6頭、縄から取り外し、差し出した。


 引き渡されたラクダ達は、その長いまつ毛をケント達に向けた。


 「……おっ?なんだ、別れを惜しんでいるのか?はっは!」

 「ほっほ!よくしてもらっていた証拠ですなぁ」


 ラクダ達の表情を見ながら、ケントと交易担当が笑いながら話していると、数人の村人達が、木箱を持ってきた。


 「ラクダはちょうど不足していたんだ。助かるよ」

 「お役に立てたようで、何よりだぜ」

 「ケント、いつものヤツだ。受け取ってくれ」


 交易品である、鉱石が詰め込まれている木箱を受け取り、商隊のラクダに取り付けた。


 この村の近辺にほ良質な鉱石がとれる鉱山があり、キャラバンの村ではいつも、この村の鉱石を素材として、武器や防具をこしらえている。


 取り引きを終えると、ケントは商隊の皆に向かって言った。


 「今日は、この村の宿屋に泊まることにする。ラクダをラクダ舎に預けたら、先に宿屋に行っといてくれ」

 「はい、ケント隊長!」

 「うぃ~っす」

 「……あの~、リート副隊長。やっぱ、副隊長が仕切ってくれません?」


 ケントが、困ったような顔をした。


 ミト、ラクト、マナトに加えて、今回はリートもケント商隊の交易に参加していた。


 「えっ?いやいや、俺、副隊長っすから」

 「いやいやいや!それはムハド大商隊の副隊長ってだけでしょ!キャラバン歴も交易数も俺の比じゃねえし、そもそも、指示出すのが違和感しかないんすよ!」

 「いやいやいやいや、この隊はケントくんが、隊長っすから」


 リートはわざとらしく、敬礼っぽい仕草をした。


 「従うっす!ケント隊長!」

 「いやぁ~……ははっ、やりづれえなぉ」


 ケントはため息まじりに苦笑した。

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