137 緊急召集①

 長老の家での作業を終え、マナトがコスナを抱えて家に帰った頃には、もう日はほとんど暮れて、暗い赤紫色の空に星が顔を出し始めていた。


 ――ニャッ……ンニャ~!


 「おはよう、コスナ」


 コスナは目を覚ますと、伸びをした。


 ――ニャッ!


 そして、専用の出入り口である小窓をくぐり、夜のキャラバンの村へと飛び出していった。


 ――コン、コン。


 「んっ?」


 コスナが家を出て行ってすぐ、家の扉を叩く音がした。


 「は~い」


 マナトは扉を開けた。


 「やあ、マナト」

 村の伝達係をしている男が立っていた。


 「あっ、どうも。どうしました?」

 「長老からの緊急召集だ。キャラバン全員、中央広場の高台前に集まれって」

 「えっ、今からですか?」

 「ああ、らしいな」

 「何があるんでしょう?」

 「詳しくは、分からない。とりあえず、確かに伝えたよ。他にも行かなきゃいけないから、それじゃ!」


 言うと、伝達係の男は、すぐに去っていった。


 マナトは軽く食べ、軽く部屋を掃除したのち、家を出た。


     ※     ※     ※


 緊急召集されたキャラバン達は、続々と村の中央広場へと集まってきていた。


 「!?」


 広場にやって来たマナトは、唖然として屋台のほうを見た。


 「婦人!そろそろ休んだほうが!」


 マナトの他にも、心配したキャラバンが、屋台に立つ料理担当の恰幅のよい婦人に声をかけていた。


 「まだまだ~!!どんどんいくよ~つくるよ~!!」


 落ち着いたとはいえ、ムハド大商隊の帰還の盛り上がりの余波がまだ残っていて、今でも屋台では遅くまで、恰幅のよい婦人を中心に、皆に料理を振る舞っていた。


 ……一週間ですよ!?


 マナトがそんなことを思いながら、屋台を眺めていると、


 ――ガシッ!


 マナトの肩に腕を回してきた者がいた。


 「おい、マナト。聞いたぜ……」


 ラクトだった。


 やたら、ニヤニヤしている。


 「えっ?なになに?」

 「お前、最近、ステラとよく一緒にいるらしいじゃねえか」

 「へっ?」

 「ステラと楽しそうに交易市場で買い物してたって噂が、広まってんぜ」

 「ホントに?参ったなぁ……それ、違うんだよね」

 「何が違うんだよ?」

 「えっとね……ぜんぶ違うよ」

 「ぜんぶ?ぜんぶって、なんだよ?」


 マナトとラクトが話していると、高台のほうから、大きな声が聞こえてきた。


 「は~い!!ちゅうも~く!!」


 長老が、高台の上に立っていた。


 長老の一歩後ろには、セラ、ジェラード、リート。ムハド大商隊の副隊長が3人、立っていた。


 「おぉ~!長老のお出ましだ!」

 「ムハド大商隊の副3人もいるぞ~!」

 「おい!ムハドはどうしたよ?」

 「長老~!」


 盛り上がるキャラバン達に、長老は両手で、静粛にするようにと指示した。


 ――し~ん……。


 そして、静かになったのを機に、長老は大きく息を吸うと、広場全体に聞こえるほどの大きな声で言った。


 「明日から、交易を再開する!!」


 ……えっ?明日から?


 マナトだけでなく、他のキャラバン達もマジで?みたいな顔をしていた。

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