356 ジェラードの言葉/マナト、困惑

 「相変わらず、メロの大通りは、いい雰囲気だなぁ」


 歩きながら、ムハドは言った。


 所々で、通りの側面を彩っている、飲食や衣料などのさまざまな商店には、頻繁に人の出入りが見られる。


 また、路上にも、日除けのテントの下で、酒売りがご機嫌に客相手に酒を振る舞っている。


 「この雑多で、解放的な感じ……物が売りやすい雰囲気なんだよなぁ」

 「ムハド、ここ数年は遠征交易ばかりやってたから、メロに来るの、久しぶりっすよね?」


 後ろからリートが話しかけると、ムハドはうなずいた。


 「どうせなら、交易品、たくさん持ってくればよかったな」

 「……」


 ムハドの一歩後ろを歩く、リートとセラの2人が、顔を見合わせた。


 「……やっぱり、なんの反省もしてないっすね、うちの隊長」

 「まあ、今に始まったことじゃないから……」

 「いや、」


 すると、2人の隣を歩くジェラードが、笑顔で言った。


 「やっぱり、ムハドは、こうでないとねぇ」

 「いやいや、こうでないとって……」

 「人間には、周りを巻き込んでいく型と、巻き込まれる型がある。ムハドは完全な前者なんだよねぇ」

 「まあ、そうね」

 「巻き込んでいく型の人間は、その名の通り、みんなを巻き込む。そういった人間に対して、人々は迷惑に思ったり、また今回の、キャラバンの村のラクダ1000頭騒動のように、実際に、みんなを振り回して困らせる」


 前を歩く当人のムハドは、時折周りの風景に目を向けながら、メロの街並みを楽しんでいる。


 「さらに言えば、ムハドは商隊の中で……いやキャラバンの村の中でも、最弱」

 「グリズリーの子供にすら、勝てないものね」

 セラが苦笑しつつ、言った。


 「ああ。それでも、みんな、ムハドについていく」

 「たしかに……考えていれば、不思議っすね」

 「でも、不思議じゃない。まるでそれが当たり前であるかのように」

 「最弱なのにね」

 「戦いになった途端に逃げるっすもんね」

 「おい!聞こえてんぞ!」


 ムハドが振り向いた。


 「途中からただディスってただろ!」

 「いやぁ?」

 「あはは!」

 「ウフフ」


 朗らかな中にも、どこか高貴さのある4人に、話しかける者は、いない。そして、自然と道を開けるのだった。


 そんな中、馬車が通りすぎた側から、ラクダを跨いだ向こう側の位置、商隊の中腹より少し後ろあたりを、マナトは歩いていた。


 「おう!なんだ、兄ちゃん、キャラバンだったのか!」

 「!?」

 「……なんでそんな顔してるんだ?この間、あそこのやっすい居酒屋で、一緒に飲んだじゃねえか」

 「!?!?」

 「いやいや、どうしたんだよ、まるで初対面みたいな……まあ、いいや。また一緒に飲もうな!んじゃ!」


 そう言い、護衛の男は、マナトに手を振りながら、去っていった。


 「あら、数日ぶりね」

 「やあ!君じゃないか!」


 他にも数人から、マナトは話しかけられた。


 それを見たラクトが、マナトに言った。


 「なんだよ、マナト。メロの国に来てたことあったのか」

 「いやないよ!?」

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